(社説)前会長の処分 NHKの説明は不可解

社説

 1月に任期を終えて退任したNHK前会長・前田晃伸氏の退職金が、10%減額されることになった。公共放送の前トップが事実上の処分を受ける異例の事態だが、NHKの説明と対応は不可解きわまりない。

 事の発端は今年4月、BS番組をインターネットで同時配信するための設備(9億円)の調達が始まっていることを現経営陣が覚知したことだった。国会で承認を得た今年度の予算で明示していない名目での支出が行われようとしていた。

 番組の同時配信は現在、地上波でのみ認められている。BSにも広げるためには政府の認可などが必要だが、まだ議論が始まってすらない。にもかかわらず、前田氏や役員らが来年度からのスタートを前提に、この支出を了承していたという。

 予算全体からみれば大きな額ではないが、NHKの業務範囲に関わる重要な費目だ。受信料を財源とするNHK予算が、経営委員会や国会への十分な説明もなく、執行部の独断で使われることは本来許されない。

 一方で疑問点が多く残る。この支出はだれが、どんな経緯で企図したのか。なぜ予算に明示すべき案件だと判断しなかったのか。こうした核心部分はうやむやのままだ。

 NHKは前会長や役員から聞き取りをしたが、人によって言い分が異なり、事実関係を明らかにできなかったという。個人情報を保護するためとして詳細を伏せているが、誰がどう答えたのか公表するのが筋だろう。

 おとといの定例会見で、前田氏の責任の度合いについて問われた稲葉延雄会長は「わからない」と答えた。そんな状態で処分を決めたことにも驚く。問題の原因を十分に分析しないままチェック態勢を強化しても根本的な解決にはならないはずだ。

 NHKは弁護士や学者らで作る委員会を設け、再発防止への助言を求めたが、事実関係の調査を委ねることはしなかった。

 民間出身の監査委員が理事会でこうした点を問うたところ、稲葉会長が「事実関係の調査等は終了している」と意に介さなかった様子が議事録に残っている。内部調査で事実関係を明らかにできなかったならなおさら、第三者に調査を委ねるべきだったのではないのか。内情を探られたくないので回避したと疑われても仕方がないだろう。

 会見では、NHK幹部が今回の対応について「自主的に覚知した。自浄作用が働いた」と自画自賛するような場面があった。問題の根源に切り込むことなくなぜこうした発言ができるのか。公共放送であるNHKには、視聴者に対する重い説明責任があることを自覚すべきだ…

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