(社説)袴田さん再審 迅速な救済を第一に
確定判決の誤りをすみやかに正し、有罪になった人を救済する。そんな再審の目的に沿った迅速な審理を実現すべきだ。
57年前に静岡県内で一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌さんの再審公判をどう進めるか、静岡地裁と検察・弁護側がきょう、4回目の協議をする。
検察側は先週、再審でも袴田さんの有罪を立証する方針を明らかにした。弁護側は「長期化は必至で、許されない」と強く批判している。
改めて意識したいのは、再審はたんなる裁判のやり直しではなく、誤判を受けた人の非常救済手続きであることだ。「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」を新たに発見したときに開く、と刑事訴訟法は規定している。
袴田さんが巻き込まれた事件では、申し立てから15年かかった第2次再審請求審で、公判にも相当するような綿密な証拠調べがされた末、裁判所が再審を認めた。さらに長い年月を費やすことのない訴訟指揮が、地裁には求められている。
検察側が示した立証方針の中心は、袴田さんが働いていたみそ工場のタンクから見つかり、犯行時の着衣とされた「5点の衣類」の血痕の赤みについてで、ここに新しさはない。再審請求審で弁護側・検察側がそれぞれ衣類をみそ漬けして行った再現実験や、鑑定などを尽くした上で検察側の主張は退けられており、再審で一から調べるのは、袴田さん側に二重の負担を課すことになる。
再審での検察側の有罪立証は法的には否定されないが、これまでの経緯を忘れたかのような姿勢には大きな疑問がある。
3月の東京高裁の再審開始決定を、検察側が最高裁に特別抗告せずに受け入れたのは、早期に決着させる必要性を感じたからではなかったのか。5点の衣類以外に袴田さんと結びつく証拠は乏しく、再審で有罪をとれるとはおよそ考えられない。
今から、積極的に有罪を主張しない方針に転じる選択肢もある。公益の代表者らしい行動を再考すべきだ。
むしろ本気で取り組むべきことは、再審開始決定が指摘した、5点の衣類を捜査当局が捏造(ねつぞう)した可能性についての検証だ。再審で説明責任を求められるのは当然で、存命の捜査関係者らに経緯を聞くなど捜査状況を洗いざらい調査しない限り、当局への不信は解消するまい。
再審手続きは現行法に具体的な規定がほとんどなく、長期化の原因にもなってきた。今回は戦後5例目の死刑事件の再審で、袴田さんは87歳と緊急性はひときわ高い。争点を絞り、一日も早く公判を始めるべきだ…
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