(社説)性自認と職場 少数者守る環境 整えよ
本人が自認する性別で働くという意思を尊重し、職場の環境をととのえる。その大切さを示す判決がきのうあった。
戸籍上は男性だが女性として生活するトランスジェンダーの経済産業省職員が、省内の女性トイレの使用を制限されたことをめぐる裁判で、最高裁が国側の行為は違法だと判断した。
職員は09年、女性として働きたいと経産省側に伝えたところ、同僚たちを集めた説明会を経て、職場とその上下の階の女性トイレを使わないよう求められた。職場の階での使用を人事院に求めたが認められず、その判定の取り消しなどを求めて裁判を起こした。
説明会では同じ階の女性トイレの使用に反対を唱える人はなく、人事院判定までの5年弱、離れた階での使用による別の職員とのトラブルもなかった。
それでもこの処遇が見直されなかったことを判決は重くみて、人事院判定は具体的な事情をふまえず、他の職員への配慮を過度に重視したと指摘した。
働く場での性的少数者への配慮を率先して示す立場にある国が、10年以上もこうした処遇を続けてきた責任は大きい。生きていく上で不可欠なトイレの使用の制約を、女性として働くことが定着した後も続けたのは、本人の尊厳をあまりに軽んじた扱いだった。
04年施行の性同一性障害特例法により、戸籍上の性別を変更できるようになった。しかし、身体への負担が重い性別適合(性転換)手術が必要で、ためらう当事者は少なくない。原告の職員も、健康上の理由から受けていない。
このような戸籍上の性別変更には至らない当事者について、判決の複数の補足意見が、性自認を十分に尊重して対応すべきだと指摘した。自らの性のありように沿って生きることは、置き換えのきかない価値だ。民間企業も含め、さまざまな職場で共有すべき判断だろう。
以前から知る人の社会的な性が変わることに当初、戸惑いや違和感をもつのも自然なことで、雇用者側による当事者と周囲の人たちの利益の調整は欠かせない。ただ、抽象的な不安にとらわれるべきではない。
性的少数者への無理解や偏見があるなか、女性トイレの使用にあたっては、認めることで他の女性職員は何を失うのか、具体的、客観的に検討することが必要だと、渡辺恵理子裁判官は補足意見で指摘した。
男女別の更衣室、健康診断などにどう臨むか、どの範囲の上司・同僚まで伝えるべきかなどで悩む人たちもいる。当事者をとりまく実情を理解し、受け止める社会を築いていきたい…