(社説)教団と自民党 社会の不信に向き合え

社説

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 高額献金に苦しむ多くの被害者、教団と自民党議員との根深いつながり――。安倍元首相の銃撃事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題が噴出して1年になる。この間、教団も、活動にお墨付きを与える形になっていた自民党も、社会の不信と誠実に向き合ってきたとは到底言えない。このまま幕引きを図るような姿勢は許されない。

 不信の根源は、何より被害救済が一向に進まないことにある。集団交渉を続ける被害対策弁護団のもとにはいま、献金被害を訴える元信者ら109人が集まり、賠償請求額は35億円を超える。だが教団は組織としての責任を認めず、各地の信徒会で個別に対応するとしている。

 このままでは、霊感商法が社会問題になった80年代以降、被害者が長期裁判を強いられた過去を繰り返すことになりかねない。資金集めの組織性は、これまでの司法判断で明らかだ。宗教法人ならば真摯(しんし)に対応するのが当然の務めである。

 だが教団は、法人への解散命令請求の回避に懸命だ。焦点となる組織性・悪質性・継続性について、「いずれもない」と主張。民事裁判で認定された不法行為を判断材料に含めるのはおかしいと反論し、岸田首相の国会答弁を否定する。不当寄付勧誘防止法ができたものの、過去の被害の早期回復には無力な現実もあらわになっている。

 東京都多摩市では、教団が取得した土地への施設建設をめぐって住民の反対運動が起きている。市は解散の行方に決着がつくまでは着工しないよう求めたが、教団は先日、既存建物の解体を始めた。社会と対話する意思のなさの表れではないか。

 自民党も教団との関係解明を放置したままだ。それは岸信介元首相と文鮮明(ムンソンミョン)教祖が握手して以来、半世紀以上に及ぶ。安倍氏は韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を称賛するビデオメッセージなどで「広告塔」となり、国政選挙で「教団票」を差配していたといわれる。

 安倍氏と教団について、派閥古参の細田博之衆院議長は「大昔から関係が深い」と非公開の場で述べたきり口をつぐむ。教団と長く関係があったとされる萩生田光一政調会長も沈黙を貫く。経済再生相を事実上更迭された山際大志郎氏は、関係を断つとの申告だけで次期衆院選での党の公認候補と決まった。

 政府の調査が続くなか、韓氏は韓国での集会で岸田首相を名指しし、「ここに呼びつけて教育を受けさせなさい」と発言したと伝えられるが、政権はコメントを控えるとしている。

 統一教会問題は何ひとつ解決していない。社会全体で目を凝らし続けたい。

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