(社説)LGBT法案 だれを守る法なのか

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 マイノリティーへの差別や偏見を根絶するという決意は、国会の中には行き渡っていないのではないか。そう思わざるをえない顛末(てんまつ)である。

 性的少数者について理解を深めるための「LGBT理解増進法案」が、自民・公明・維新・国民民主の4党が修正した内容で、きのう衆院を通過した。

 2年前、超党派で法案に合意したが、法制化に反対する保守派に配慮して数々の修正が加えられ、理念は大きく後退した。

 修正協議の動きは急だった。自民・公明の案に維新・国民の案をほぼ取り込む形で4党が合意したのは先週で、その日のうちに衆院内閣委員会で可決した。超党派合意の案を国会に提出していた立憲・共産・社民や、差別禁止法の制定を国会に求めてきた当事者団体は、かやの外に置かれた。

 大きな変更は、この法に基づくあらゆる措置の実施について「全ての国民が安心して生活できるよう、留意する」と求める条文が加わった点だ。

 維新・国民案から取り込んだもので、「『風呂などの男女別の施設を自認する性で利用する人が出るのではないか』と不安を感じる人が出る」と主張する守旧派の意見が念頭に置かれている。だが、その流れで「全ての国民の安心」を留意事項として入れたのでは、当事者を不安や恐れの対象とみる人たちへの「配慮」を広く求めることになる。教育・啓発の実践を萎縮させることにつながりかねない。

 与党案にあった「民間の団体等の自発的な活動の促進」という文言も、維新・国民案に沿って削除された。

 超党派案にあった「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」の表現は消え、「差別は許されない」は「不当な差別はあってはならない」に変更、差別を否定するメッセージ性は薄められた。

 自民党内の反対派に寄り添うような案を出した維新・国民も、そのまま採り入れた与党も、数年にわたった議論をなきものにする無節操ぶりだ。

 法案審議ではトランスジェンダーの当事者の公共のトイレ、風呂の使用をことさらに取り上げ、偏見を助長するような質問もみられた。性自認や性的指向を理由とする深刻な差別、いじめへの問題意識は社会で共有されつつあるが、最も後れをとっているのが国会ではないか。

 当事者や支援する団体は「理解の増進どころか、抑制、後退させる法がつくられようとしている」と不安を隠さない。何のための法律か。参院では丁寧に議論し、理念が共有され確実に機能する法案になるよう、修正しなければならない。

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