(社説)巨大ダム決壊 国際法無視は許されぬ

社説

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 水煙を上げて渦巻く濁流、流されていく家――。目を疑う映像だ。ウクライナ南部の巨大ダムが決壊し、下流に大量の水が押し寄せている。意図的な破壊行為だとすれば、重大な戦争犯罪である。被害の拡大を防ぐ努力とともに、真相の究明と責任者の処罰が必要だ。

 決壊したカホウカ・ダムはウクライナを南北に流れる大河に1950年代に建設された。高さ30メートル、長さ3キロ以上の巨大な建造物だ。

 すでに下流の多くの都市や集落が洪水に襲われた。住民がボートで避難する様子のほか、流れ出した地雷のような映像も報じられている。

 被害は広範囲かつ長期に及びそうだ。ただちに重大な問題は起きていないというが、ダム上流にある原発が冷却不足に陥らないかが懸念される。水不足や汚染物質による健康被害や農業への影響も気がかりだ。

 国際条約は、ダム、堤防や原発など「危険な力を内蔵する工作物」への攻撃を固く禁じる。

 ウクライナとロシアは、互いに相手が意図的にダムを破壊したとして非難の応酬に終始している。だが一義的に真相解明の責任があるのは、昨年来ダムを不法に占拠し続けているロシアだろう。根拠を示さずにウクライナを非難する姿勢は説得力を欠く。国際的な調査団の受け入れなどを検討するべきだ。

 今回の決壊は、ウクライナ側が占領された領土の奪還作戦に着手したのではないかと見られるタイミングで起きた。何者かが意図的に洪水を起こして軍の行動を妨害しようとした可能性も現時点では否定できない。

 ロシアによるウクライナ侵略では、非戦闘員の虐殺、病院や避難所への攻撃、住宅地への焼夷(しょうい)弾攻撃、捕虜の虐待や拷問など、恥ずべき戦争犯罪が繰り返されてきた。占領地からの子供たちの連れ去りでは、国際刑事裁判所プーチン大統領に逮捕状を出した。

 ロシアはただちに違法な侵略をやめ、戦争犯罪の処罰に応じるべきだ。

 理不尽な非人道的行為に苦しむウクライナの怒りは十分に理解できる。とはいえ、国際規範を守る責任がウクライナ側にもあるのはいうまでもない。すでに指摘されている対人地雷使用などの問題にも真摯(しんし)に向き合うべきだ。

 何より憂慮されるのが、攻防が激しくなり、規範順守への歯止めが利かなくなることだ。

 違法な侵略を食い止め、撃退を目指すウクライナを、国際社会が支えるのは当然だ。一方で熾烈(しれつ)な破壊と殺戮(さつりく)を終わらせるための外交的な働きかけを、関係国は一層強める必要がある。

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