(社説)入管法改正案 根拠への疑義に答えよ

社説

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 出入国管理法改正案をめぐる参院の審議で、法案の前提が根底から揺らぐ事態となった。あいまいにさせたまま成立させることはあってはならない。

 非正規滞在となった外国人が難民申請中の場合、強制送還はしない。法案の焦点は、この規定を3回目以降の申請者については対象外とする点だ。

 政府は日本にとどまろうとする一部の外国人が難民申請を乱用しており、一定の制限が必要だとする。ただ、認定に誤りや漏れがあった場合、保護を求めてきた人を迫害のおそれのある国に帰してしまうことになる。

 この点について、「難民審査参与員」として難民認定に携わる2人が国会に参考人として出席し「難民と認定できる申請者はほとんどいない」などとした発言が、波紋を広げている。

 NPO「難民を助ける会」名誉会長の柳瀬房子氏は、現在のとほぼ同じ内容の法案をめぐり21年「2千件を担当し、難民認定すべきだと判断できたのは6件だけ」と述べた。入管関連の著作がある浅川晃広氏は先週「1日に書面審査をまとめて50件くらい処理した」と話した。

 これらの発言から、野党議員や難民認定に詳しい弁護士らは手続きの中立性や公平性に強い疑問を投げかけている。

 参与員は民間の有識者で、入管が難民不認定とした人の不服申し立てを3人1組でチェックし、法相に意見を述べる。入管庁は、22年に処理された約4700件の4分の1、21年は同6700件の5分の1を柳瀬氏が担当したと明らかにし、111人の参与員のごく一部に集中的に案件が配分されている運用が表面化した。

 有志の参与員6人はおととい会見して運用の不透明さに言及し、複数回目の申請でも「難民と認定すべき人はいる」などと指摘している。

 深刻なのは、誤用・乱用による難民申請が多いという認識が、法案の必要性、妥当性の根拠となっていることだ。

 2月に入管庁が公表した「現行入管法の課題」では、「難民認定率が低いのは、分母である申請者に難民がほとんどいないということ」といった柳瀬氏の発言を引用している。斎藤健法相も今週の参院法務委員会で、柳瀬氏の発言が法案の立法事実の一角をなすと認めている。

 立憲などがまとめた、難民認定を政府から独立した委員会に担わせる対案に、政府の法案より説得力があるのは明らかだ。

 当事者の参与員でさえ呈している運用上の疑義に、法務・入管当局は答える責任がある。参院での審議ではより広く関係者の意見を聞いて、法案を根本的に精査するしかない。

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