(社説)沖縄復帰51年 犠牲強いる構図直視を
再び戦闘の最前線になるのではないか。そんな不安が高まる中で、沖縄は15日、日本への復帰から51年を迎えた。
本土から犠牲を強いられる構図は半世紀を経ても変わらず、むしろ新たな懸念が浮上する。その現実に目を向けたい。
岸田政権は昨年、国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定し、敵基地攻撃能力の保有で防衛力強化へ踏み出した。台湾や中国に近い沖縄県の南西諸島には陸上自衛隊の駐屯地を相次いで開設し、ミサイル部隊を配備。米軍も沖縄の海兵隊を改編し、離島に機動的に展開する即応部隊を創設する方針だ。
基地強化の流れはいつの間にか既成事実化し、国は基地負担軽減どころか、沖縄との溝を深める方向へ突き進んでいる。
太平洋戦争で地上戦があった沖縄では県民の4人に1人が犠牲になった。戦争が起きれば軍事拠点は標的となる。住民の不安を無視して有事への舞台作りに邁進(まいしん)するのではなく、近隣諸国との連携や外交努力もあわせ、基地のあり方を幅広い視野に立って考え直すべきだ。
いま、改めて思い起こしたい歴史的な文書がある。
復帰前年の71年、琉球政府が作った「復帰措置に関する建議書」だ。132ページの文書は米軍により様々な権利が侵害されている実態を告発し、「平和憲法のもとでの基本的人権」や「基地のない平和な沖縄への復帰」を切実に求めている。復帰に際して問題点を列挙した「復帰の原点」ともいわれる。
だが同年11月、琉球政府の屋良朝苗主席が国会に手渡すため上京したその日、衆議院特別委員会は無視するように沖縄返還協定を強行採決してしまった。
琉球政府の職員として作成に携わった平良亀之助(たいらかめのすけ)さん(86)は、文書は「今でも生きている沖縄の要求だ」と主張し続けている。基地のない島をめざし、特別チームで約10日で練り上げたのがあの建議書だった。
「沖縄の声は審議もされず、ないがしろにされた。あのときの訴えを誠実に実行に移すよう、求め続けるべきだ」
今も全国の米軍専用施設の7割が集中する沖縄の現実。軍と隣り合わせにいる危険を直視し、国全体の課題として取り組む必要がある。
県公文書館にある建議書にはこんな一文が出てくる。
「従来の沖縄は余りにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となって利用され過ぎてきました。復帰という歴史の一大転換期にあたって、このような地位からも沖縄は脱却していかなければなりません」
基地が地元に落とす深刻な影を、原点に返って考えたい。
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- 【視点】
「○○から○年」という記事がよくあります。私もこれまでいろいろ書きましたが、「○年」が近づいて慌てて取材してはいまいちの繰り返し。集中豪雨的な「アニバーサリー・ジャーナリズム」への批判を耳にすると今も心中穏やかではありません。 特に沖縄
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