(社説)米韓首脳会談 「核」頼みに成算はない

社説

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 力を誇示するだけでは北朝鮮の核・ミサイル開発は止められない。圧力と対話のバランスを欠いた戦略は、朝鮮半島の非核化という目標に逆行するばかりか、かえって北朝鮮を勢いづかせかねない危険をはらむ。

 バイデン米大統領が韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を招き、会談した。韓国大統領の国賓訪問は12年ぶりである。

 両首脳は、核兵器を含む米戦力を背景に、韓国攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」の強化を主眼とするワシントン宣言を発表した。核運用情報の共有などを話し合う協議体も立ち上げる。核兵器の使用は従来通り米国が判断するが、韓国は意見を伝えることが可能になる。

 会談では、米国の戦略原子力潜水艦を韓国に寄港させることも決まった。戦略原潜は核兵器の搭載も可能で、韓国への派遣は1980年代以来という。

 北朝鮮が核兵器使用をちらつかせるなか、韓国で核保有論が強まっている。有事に米国は自国の安全を優先して介入しないのではとの疑念も広がる。そんな不安を鎮める狙いもあるのだろう。米国は韓国に核不拡散条約の順守を誓わせた上で蜜月ぶりをアピールした。

 北朝鮮に対して米韓が足並みをそろえるのは歓迎すべき動きだ。一定の抑止力も必要だろう。だが核をもって核を制する発想で北朝鮮を抑え込めるとの考えは危うい。核兵器の配備も禁じた1991年の南北非核化共同宣言を韓国自らが破ることにもつながりかねない。

 共同記者会見でバイデン氏は北朝鮮が韓国など同盟国に核攻撃すれば「体制の終わりを迎える」と牽制(けんせい)した。尹氏も「圧倒的な力の優位を通じた平和を達成する」と語った。だが抑止をもってしても北朝鮮問題を打開できなかった過去の教訓を、米韓は学ぶ必要がある。

 会談に反発した北朝鮮が、それを口実に軍事行動に出る可能性がある。挑発の応酬で出口のない泥沼にも陥りかねない。

 米中対立が高まる折、地域に新たな軍事緊張をもたらしかねない米戦略原潜の派遣が適切な対応か、再考も必要だ。求められるのは朝鮮半島安定に中国を巻き込んでいく知恵だろう。

 ワシントン宣言には「前提条件なしに北朝鮮との対話を求めている」との文言も盛り込まれてはいる。だが、決定的に欠けるのが対話を始動する機運だ。形ばかりの呼びかけではなく、交渉につくよう北朝鮮に促す実質的な行動が欠かせない。

 日本が米韓と連携を強めていくのは当然だ。北朝鮮の動きを精緻(せいち)に分析しつつ、対話の側に引き寄せていく方策を共に探ってほしい。

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