(社説)入管法改正案 課題に背を向けた国会

社説

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 非正規滞在の外国人に対する入管当局の適正な処遇をどう確保するか。議論は大きな世論のうねりを生んだ。国会が拙速に封じるのは許されない。

 外国人の収容・送還のルールを改める出入国管理法改正案が衆院で審議されている。与党と一部の野党は、微修正した上でただちに可決する構えを見せている。

 入管施設での長期収容を防ぐ対策が問われたにもかかわらず、政府提出の法案は、収容をめぐる手続きに裁判所など第三者のチェックを入れることを避け、入管当局の強い裁量下にとどめる。難民申請中でも強制送還できる例外も設けた。保護を求めてきた人を迫害のおそれのある国に帰すリスクは高まる。

 抜本的な修正なしには、可決すべきでない内容だ。

 ところが、自民、公明、立憲、維新が参加した修正協議では、法案の骨格に立ち入ることはなかった。

 改正に向けた議論のきっかけが、長期収容に抗議してハンストしたナイジェリア人男性が19年に餓死した痛ましい事件だったことを、忘れたのだろうか。

 法案が初めて提出された2年前には、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんの収容中の死亡が明らかになった。人権を顧みない入管の処遇のあり方への抗議がSNSや集会を通し、多くの人々に広がったことは記憶に新しい。

 それに押される形で、与野党は当時、不当な収容に実効的な歯止めをかける必要があるとの認識を共有して修正協議を進めたはずだ。ただ、協議はまとまらず廃案になった。旧法案の骨格は、今の法案に引き継がれている。今回、わずかな修正で可決するのでは、一貫性をあまりに欠いていないだろうか。

 今回の修正協議では、難民認定手続きを入管当局でない第三者機関に担わせる検討について付則に明記する案も話し合われた。これこそ、法案の内容に先がけて実現すべきことだろう。難民条約をはじめ国際人権の規範に立脚する難民保護行政は、入国審査や在留管理とは独立して行われるべきだという指摘は、かねてされてきたことだ。

 国連人権理事会の特別報告者らは今月、法案が国際人権基準を満たしていないとする書簡を日本政府に送った。2年前の旧法案のときに続く、2回目の指摘である。

 斎藤健法相は、書簡に法的拘束力はないと述べ、「一方的に見解を公表したこと」に抗議の意を表明した。しかし、ことは外国人の人権に直結する問題だ。国際社会の声に耳を傾けることなしに、理解を得られる制度をつくることはできまい。

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