(社説)防衛費の財源 欠陥だらけの確保法案

社説

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 「絵に描いた餅」とはこういうことを言うのではないか。防衛費の大幅増をまかなう触れ込みの「財源確保法案」の国会審議で、大きな欠陥が明らかになってきている。このまま進めば、防衛費が国債頼みで歯止め無く膨張することになるだろう。考え直すべきだ。

 政府は昨年末、戦後の抑制的な安全保障政策を大転換し、27年度の防衛費を今より4兆円多くすることを決めた。そのための財源確保法案は、国有財産の売却などの一時的な収入をためる「防衛力強化資金」の新設が柱になっている。

 だが、9千億円を見込む国有財産の売却益や特別会計の剰余金などは1回限りしか生じない。衆院審議で野党が「安定財源とは言えない」とただしたところ、鈴木俊一財務相は「27年度以降の財源について、残念ながら確実に手当てできるというものがまだない」と答えた。自ら欠陥を認めたも同然だ。

 1兆円強をひねり出すという歳出改革も名ばかりで、審議でも政府は具体的な中身を示せていない。

 補正予算に活用してきた決算剰余金から7千億円を回すという方策も、裏付けが極めて脆弱(ぜいじゃく)だ。これを財源と呼ぶのなら、コロナ禍後に膨れた補正予算を大幅に縮小することが不可欠である。だが、政府はその道筋も示すことができずにいる。

 一方で、唯一安定財源となりうる1兆円強分の増税は、自民党の反発で法案には盛り込まれていない。

 もくろみ通り財源は集まらずに、借金に頼った防衛力強化になるのは目に見えている。このようないい加減な中身を財源確保と称する政府の無責任ぶりにはあきれるしかない。

 国債による軍事費調達は、先の大戦で悲惨な戦禍を招く一因になった。歴代政権が借金で防衛費をまかなわない不文律を守ってきたのはこの反省からだ。

 だが、岸田政権は今年度予算で、建設国債の防衛費への充当を初めて認める。「あまりにも歴史的教訓を学んでおらず、大きな禍根を残す」(立憲民主党の道下大樹氏)との指摘に、耳を傾けるべきだろう。

 右肩上がりの成長で豊かな税収増を期待できる時代はとうの昔だ。政策に優先順位をつけ、限られた財源や資源を配分する判断を下す役割こそが、政治家に求められている。防衛費を最優先する半面で少子高齢化への対応が二の次にされ、国民生活をゆがませるようなことは、あってはならない。

 規模ありきで身の丈に合わない防衛力強化を見直したうえで、改めて地に足の着いた財源確保の議論をする必要がある。

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