(社説)日中外相会談 違い乗り越え協調探れ

社説

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 意見や立場に相違はあっても、率直な対話を重ね、対立ではなく協調の道を探る。それが、地域と世界の平和と繁栄のために、日中両国が果たすべき責務である。政治、経済、国民交流など、重層的なパイプを磨き、関係再構築の足場を確かなものにしなければならない。

 林芳正外相が北京を訪問し、秦剛(チンカン)外相と会談した。日本の外相の訪中は3年3カ月ぶり。昨年11月に岸田首相と習近平(シーチンピン)国家主席がタイで会談し、「建設的かつ安定的な日中関係」に向けた意思疎通の強化で一致したことを受けたものだ。李強(リーチアン)首相への表敬や中国外交トップの王毅(ワンイー)政治局員との会談も実現した。

 今年2月には、政治、安全保障、経済の各分野で、両国の次官級による協議が再開された。林氏の訪中前日には、中国軍と自衛隊の偶発的な衝突を避けるための防衛当局間の「ホットライン」も開設された。

 しかし、順調な話ばかりではない。北京に駐在する日本企業の社員が先月、中国の反スパイ法違反などの容疑で拘束された。現地の日本人社会には不安が広がっており、経済活動の萎縮につながりかねない。外相会談では、林氏がまず拘束に抗議し、早期解放を要求した。

 尖閣諸島など日本周辺での中国の軍事活動は、むしろ活発化している。林氏は「深刻な懸念」を伝え、台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘した。一方、日本も敵基地攻撃能力の保有や防衛費の大幅増など、安保政策の転換に踏み切った。力による対峙(たいじ)が地域の緊張を高めることのないよう、両国のより緊密な話し合いが不可欠だ。

 ロシアのウクライナ侵略をめぐっては、中国は表向き「中立」をうたいつつ、ロシアへの肩入れが目立つ。林氏が中国側に「責任ある役割」を果たすよう求めたのは当然である。ロシアに影響力を行使するよう、粘り強く働きかけねばならない。

 両外相が、2019年末以来開かれていない「日中韓サミット」を含む3カ国の協議の再開で一致したのは歓迎できる。徴用工問題の政治決着で、日韓関係が改善に動き出したタイミングであり、北朝鮮の核・ミサイル開発を含め、日中韓が地域の問題を話し合う意義は大きい。

 外相の訪中前日、日本政府は中国を念頭においた先端半導体の製造装置の輸出規制を発表した。米国が求める対中包囲網の形成に協力する狙いは明らかだ。ただ、中国は日本にとって歴史的にもつながりの深い隣国であり、最大の貿易相手国でもある。米中の対立が世界の安定や経済の発展に悪影響を及ぼさないよう、主体的な近隣外交に努める必要がある。

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