(フォーラム)どうするローカル鉄道:1 論点は

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 鉄道のローカル線が岐路を迎えています。人口減少やマイカーシフトで利用者が減っていたところにコロナ禍が追い打ちをかけ、鉄道会社の経営が悪化しました。赤字路線は今後、バスへの転換を含めた議論を迫られます。地域交通の問題とどう向き合うべきか、考えます。

 ■集客へ企画次々、でも遠い赤字解消 JR九州「日常から乗る人、増やさないと」

 JR西日本と東日本は昨年、相次いで赤字ローカル線の収支を公表した。バスなどへの転換の意向も示し、注目を集めた。

 JRの上場4社のうち、その先駆けとなったのはJR九州だ。2020年5月、1日1キロあたりの平均利用者数(輸送密度)が2千人未満の線区で、収支を初めて公表した。対象となった12路線17区間全てが赤字だった。一部の路線では、国鉄民営化後の約30年間で輸送密度が9割落ち込んでいた。管内に大都市の福岡があるが、ローカル線の赤字を補うことは容易ではない。

 同社は19年度、輸送密度の減少が著しい6路線7区間の沿線自治体と「線区活用に関する検討会」を立ち上げた。目的は「鉄道の持続可能性を高める」こと。年数回の協議では、乗客を増やすための企画を出し合い、実際に取り組んでいる。

 佐賀県内を走る筑肥線では、イルミネーション列車の運行が実現した。鹿児島県宮崎県をまたぐ吉都線では、沿線の幼稚園児が乗る貸し切り列車を走らせた。いずれも数百人ほどの乗客で、収入は10万~15万円ほど。1億~3億円規模の赤字の解消にはほど遠い。

 JR九州の担当者は「状況を好転できてはいない」と認める。事態の打開には「イベントではなく、日常から乗る人を増やさないといけない」と話すが、具体的なアイデアはまだ出ていないという。

 検討会では、バスなどへの転換については議論していない。にもかかわらず、一部の自治体からは検討会の開催すら拒まれている。担当者は「赤字ローカル線は経営課題の一つ。国も問題意識を持って動いている中で、私たちの考え方を整理していかないといけない」と話す。

 ■LRT生かし、まちづくり 乗客増の富山、医療費抑制の試算も

 公共交通を生かしたまちづくりで成功している地方都市がある。立山連峰を望む人口約40万人の富山市の中心部では、ライトレール(LRT)と呼ばれる次世代型の路面電車が走っている。JR西日本の富山港線の廃線にともない、線路を引き継いでLRTを導入。市内の路面電車とつなぎ、便数も大幅に増やした。

 利用者は増えた。LRTで市役所に来ていた女性(72)は「数年前に車を手放したので、出かける時には(LRTを)使います」と話す。また、夫の転勤で移り住んだという30代の女性も「引っ越す前は地下鉄に慣れていたので、車社会に不安を感じていた。来てみたら街中での買い物や子どもの習い事にLRTが利用できて便利です」と話していた。

 富山市は、公共交通を軸にした「コンパクトシティー」を掲げ、公共交通の沿線に新たに家を建てたり、部屋を借りたりする世帯に補助金を出している。こうして、公共交通の沿線に自然に人が集まって暮らすようになってきた。

 さらに、公共交通が高齢者の外出機会を増やすという効果も生まれている。65歳以上が中心部に行く場合、運賃を100円にする「おでかけ定期券」がある。市と京都大学などの調査によると、定期券を持っている人は持っていない人に比べて出かける頻度が高く、歩数も多い。市全体の医療費を年間8億円抑えることにつながる、という試算もある。

 前富山市長の森雅志さんは言う。「公共交通を軸にしたまちづくりをすると訴えた時、『なぜ今さら路面電車なのか』という声もあった。しかし、1人1台の車社会は質の高い暮らしとは言えない。街中の本屋に行き、映画を見て、食事をする。人と人との出会いが生まれる。公共交通は社会の公共財なのです」

 ■たどり着いた「上下分離」 5年かけ議論、負担増を直視 滋賀

 ローカル線の運営見直しの選択肢の一つに「上下分離方式」がある。固定費が多い鉄道施設を自治体が所有することで、鉄道会社の経営を立て直す方法だ。滋賀県を走る近江鉄道は沿線自治体との議論を重ね、この上下分離方式にたどり着いた。

 1896年創業の近江鉄道は「ガチャコン」の愛称で親しまれ、県東部から大阪、京都へ通勤客らを送り出す。ただ、乗客は減り、2022年3月期決算まで28期連続の営業赤字となっている。

 民間企業だけで維持するのは困難と判断し、自治体に協議を申し入れたのは16年。「自治体からは当初、『本当に赤字なん?』と思われていた。信頼関係がなかった」。担当した服部敏紀・総合企画部長は話す。

 県と沿線10市町に経営状況を知ってもらう勉強会から始め、18年12月に本格的な協議がスタートした。ときに怒号も飛んだが、議論の羅針盤となったのは第三者による評価だ。

 県などは外部の調査会社に委託し、鉄道、バス、BRTバス高速輸送システム)、LRT(次世代型路面電車)の四つを比べた。BRTとLRTは初期投資で100億円以上かかる。バスは30億円もかからず、毎年の赤字額は4.3億円で鉄道より8千万円少なかった。一見有望に見えるが、運転士は人手不足で、運行の維持には懸念があった。

 もう一つの調査で、交通インフラとしての効果を数字で示した。もし鉄道を廃止すれば、代わりに病院や学校への送迎にバスを使うことになり、渋滞に対応するための道路整備も必要になる。鉄道の維持に年6.7億円が必要なのに対し、こうした代替手段には年19億~54億円かかると試算された。「鉄道にかかる費用は仕方がないと思ってもらえたのだろう」と服部さんは話す。

 協議は約5年かけ結論に至った。24年度からの転換が決まり、地元は数億円の負担が見込まれる。服部さんは「地域にこの鉄道が必要なのか、関係者が自問自答できた」と言う。

 ■公共交通維持へ、「交通税」議論

 公共交通の維持費を誰が負担するか、も大きな論点だ。滋賀県は県内の鉄道・バス路線の維持のために使う「交通税」の議論を始めた。実際に導入されれば、全国初となる。

 使い道は、運行費用や設備投資への補助が想定される。個人県民税や法人事業税などに上乗せする「超過課税」という手法が考えられるという。公共交通が県民の足となっていることを踏まえ、広く負担してもらえるようにする。

 「鉄道は事業者による営利事業とされるが、道路の場合は傷めば税金で補修される。同じ社会インフラとして位置づけ、みんなで支えることも考えるべきだ」。県の担当者は、税金を使う理由をこう説明する。

 公共交通の整備や維持に公費を使うことは、諸外国でも珍しくない。県によると、交通税が導入されているフランスでは、法人などに対し、従業員の給与総額の数%を上限に税金をとる。ドイツや英国、米国でも、道路の利用やガソリンの購入時などに税を徴収しているという。

 ■「鉄道である必要ない」「安易な廃線には疑問」

 アンケートは、ローカル鉄道が走る道府県の住民や鉄道ファンの方々からも寄せられました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/173/で読むことができます。

 ●国が責任を持って JR3島会社は民営化の際、経営安定基金の運用益で赤字を補填(ほてん)する話であったが、政府による低金利政策のために、それが成り立たなくなった。路線存続に関わるほどの赤字分は、国が責任を持って税金を投入するか、北海道と四国は再度国有化するべきである。(三重、男性、60代)

 ●私たちの選択の結果 鉄道は私たちの財産。軽々に廃止すべきではありませんが、ローカル線の厳しい数字を目の当たりにすれば、廃止やむなしかと思います。道路への投資を最優先にし、私たちが利用しないという選択をした結果ではないでしょうか。(広島、男性、70代)

 ●線路は公道と同じに 上下分離方式にかえ、線路は公道と同じ扱いにする。運行は民間に委託し赤字分を沿線自治体が負う。ヨーロッパでの路面電車などはそのような運用形態で公共交通を維持している。沿線民の心には自分たちの足は自分たちで守るという意識があるのだろう。(埼玉、男性、60代)

 ●鉄道が残っていれば 利用者が少ないからと、ローカル鉄道を安易に廃線にすることが本当に正解なのか疑問。私が住む町でも十数年前に廃線になった。その後、町に新興住宅地ができ、若い人が増えた。通勤や通学の送迎で道路の渋滞がすごい。今になり、遅延のほとんどない鉄道が残っていれば、と語る人は多い。(福岡、女性、40代)

 ●鉄道である必要はない 利用者の少ない場所は維持費、環境などを考えても代替交通機関を利用するべきだ。そもそも本数も少なく、ピンポイントの運行ならば鉄道である必要はないと思う。高齢化も進んでいる中、駅までの足などを考えても、バスなどで地域をまわる方がメリットがある。(東京、女性、30代)

 ●乗客は高校生とオタク 趣味で稚内から那覇まで、JR、私鉄、3セク、公営鉄道の線路を乗りつぶした「乗り鉄」です。ローカル線の主な乗客は高校生と鉄道オタクです。ほとんどの路線に並行して税金で造った道路があり、ビジネスの観点では競争は無理です。バス転換はやむを得ないと思います。(東京、男性、60代)

 ●矮小化すべきでない ローカル鉄道の存廃にだけ焦点をあてる近視眼的な見方に強烈な違和感を覚えた。地方交通の問題はローカル鉄道に矮小(わいしょう)化すべきではない。人口密集回避、国土保全、リスク分散の観点から「地方」を位置付けるべきである。(富山、男性、60代)

 ●街のグランドデザインを 街や集落のグランドデザインを、若い住民の意見を採り入れて検討していく必要がある。古くからの住民は、街や駅前がにぎわっていた情景を思い浮かべがちだと思うが、10年、20年後の財政負担を担う人たちの意見を重視すべきだ。(東京、男性、60代)

 ■ローカル線問題を考える、5月1日まで配信中

 鉄道のローカル線問題にどう向き合うかを考えるオンライン記者サロンを5月1日まで配信中です。鳥取県平井伸治知事とJR東日本の深沢祐二社長のインタビュー映像を交え、国のローカル線の検討会で座長を務めた東京女子大の竹内健蔵教授と記者が議論しました。

 申し込みは募集ページ(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11010355別ウインドウで開きます)、またはQRコードから。

 ◇松本真弥、三輪さち子が担当しました。

 ◇アンケート「マッチングアプリで結婚した人、身近にいませんか?」「スポーツでの暴力・ハラスメント・体罰、どうなくす?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週26日は「どうするローカル鉄道:2」を掲載します。

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