(社説)大震災12年 災害法制を進化させよ
東日本大震災から12年を経て、津波被災地の復興事業はほぼ完了した。復興基本法第2条の「基本理念」がうたう「21世紀半ばにおける日本のあるべき姿をめざして」の成果が問われる段階を迎えている。
これまでの歩みを顧みて、評価できるのは政府が従来の「国土の復旧」に加えて、「生活の再建」にも乗り出したことだ。
国と県で4分の3を出すグループ補助金、販路開拓や新製品開発での大企業とのマッチングといった「官と民」の柔軟な連携は斬新だった。「行政哲学を転換した」ともいわれ、その後の災害にも継承されている。
一方で旧態依然の手法の弊害が厳しく指摘され続けた。
道路、農地、防潮堤など省庁縦割りの事業はスピード優先で費用対効果が二の次にされ、過大な公共工事を多く生んだ。復興庁の元事務次官が「止めたくても止められなかった」と認める現場もあったほどだ。
過疎地の復興の難しさも際立つ。行政による「まちの復興」と、住民それぞれの「ひとの復興」の時間軸の違いの大きさを示したのが、かさ上げした土地に広がる空き地の多さだ。岩手県陸前高田市では約300ヘクタールの造成地の6割余りに、いまだ利用計画がない。
最大の原因は津波で破壊された市街地全体を再興する制度が土地区画整理事業しかなかったことだ。経済成長が前提の都市開発の手法が人口の減る地域に不向きなのは明らかだった。
被災地からは災害に特化した制度を求める声も上がった。だが結局、いまだに過疎地に即応できる制度はない。南海トラフ地震にも同じ制度で対応するつもりなのか。行政府と立法府の怠慢は明らかだろう。
災害救助法の「現物支給の原則」を抜本的に見直し、金銭支援を拡大すべきだとも言われている。1戸あたりの価格が仮設住宅1千万円、公営住宅2千万円に対し、被災家屋の修繕費の平均は約500万円だった。
南海トラフ地震の建物の全壊・焼失は239万棟と想定される。そんなに仮設住宅を用意できるはずがなく、現物から金銭への切り替えは急務のはずだ。
みずから申し込まないと支援を受けられない「申請主義」が、年老いた被災者らを切り捨てているとの批判も根強い。
被災者生活再建支援法の対象が「世帯」であることも、被災者個人の事情が考慮されない問題点として指摘されている。
実情を踏まえた現場の声を教訓として生かし、時代の要請に合った新制度を設計してゆく。そうやって災害法制を進化させることが、東日本大震災を経験した世代の務めのはずだ。
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