(社説)高市元総務相 国の基盤 揺るがす暴言

社説

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 放送法の解釈をめぐって野党議員が公開していた内部文書について、総務省がおととい、行政文書であることを認めた。

 放送法が1950年に制定されて以来、政府は放送番組が政治的に公平かどうかはその局の番組全体で判断するとの立場をとってきた。だがその方針が、一部の政治家と官僚による密室での議論で大きく転換した可能性が濃厚になってきた。

 メディアへの介入という意味でも、政策決定の妥当性という意味でも、重大な事態だ。文書に書かれた内容について、政府はすべてが事実かどうかはまだ確認できていないとする。解明を急がねばならない。

 だが、それを妨げている大臣がいる。当時、まさにその方針転換の答弁をした当人である高市早苗総務相だ。

 問題の資料が行政文書であると総務省が認めたあとも、高市氏は「ありもしないことをあったかのようにして作るというのは捏造(ねつぞう)だ」との発言を連日、国会などで繰り返している。

 内部資料のうち、高市氏が出席した打ち合わせの内容などを記した部分について、そもそも打ち合わせそのものが存在しなかった、といった主張だ。官僚がなぜ「捏造」する理由があるのかと聞かれると、「パフォーマンスが必要だったんじゃないか」とまで述べている。

 国民の行政に対する信用をおとしめ、国家の基盤を揺るがす乱暴な発言ではないのか。

 たしかに文書は総務省の官僚が作ったもので、あらかじめ関係者に、記載する発言内容の確認を求める「すりあわせ」を経たわけではない。官僚の視点でまとめたものであることに一定の留意は必要だろう。

 だが行政文書は、政策の決定過程や行政の執行過程を着実に記録して、後世の検証を可能にし、将来にわたって国民に説明義務を果たすためのものだ。その作成は、官僚の仕事の中核の一つでもある。

 それを頭ごなしに政治家が「捏造」などと言えば、国民はなにを信じたら良いのか。もっとていねいに語るべきであるのは当然だ。

 しかも、その文書が作られた当時の総務省を率いていたのは高市氏本人である。仮に正確性に疑義があったとして、その責任は自分が負うことになるのをわかっているのだろうか。確たる根拠を示さずに、公文書制度に対する信頼を掘り崩すのはやめてもらいたい。

 公文書管理の徹底は、政府あげての課題のはずだ。そんななか、このような物言いを繰り出す人物が大臣についているようでは、この国にまともな公文書制度を根付かせるのは難しい。

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    牧原出
    (東京大学先端科学技術研究センター教授)
    2023年3月9日17時53分 投稿
    【視点】

    総務省が行政文書として認めた文書を読んだ上で言えば、一連のプロセスは安倍首相に事前に相談もない礒崎補佐官のスタンドプレーで、今井秘書官ら首相秘書官はかなり否定的で、高市大臣も当初から懐疑的でした。しかし安倍首相に最終局面で意向を確認すると、

    …続きを読む