(社説)日本のウクライナ支援 平和への歩みと知見生かせ

社説

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 かつて日本は、周辺国を侵略し、人びとを蹂躙(じゅうりん)し、そして戦争に負けた。

 荒廃から立ち上がり、平和憲法をたずさえて、民主国家を築いた。経済発展を遂げ、国際社会での地歩も固めた。途上国や紛争地、被災地で、非軍事の支援を重ねてきた。

 ロシアの侵略戦争に抗する国際結束をいかに支え、ウクライナの被害者にどう手を差しのべればいいか。平和国家として戦後、培ってきた日本の知見と経験を最大限生かすべき時だ。

 ■息長く支えるために

 日本が最近、力を入れるウクライナ支援が地雷除去である。

 復興に欠かせないばかりではない。ロシア軍が農場に仕掛けた大量の地雷が作付けを妨げている。有数の穀物輸出国だけに影響は世界に及びかねない。

 日本には、内戦後のカンボジアで地雷除去を支援してきた実績がある。専門の重機を作る企業もあり、日本の強みを生かせる分野だ。連携するカンボジアで除去訓練も実施した。

 1年前の侵攻開始以来、日本はウクライナと周辺国に多くの人道支援物資を送ってきた。ロシア軍が民生施設をミサイルなどで集中攻撃したこの冬は、日本から届いた発電機が停電や断水に苦しむ人々を喜ばせた。

 携帯型ミサイル、ロケット砲、戦車――。戦争の長期化とともに欧米はウクライナへの軍事支援を拡大させてきた。日本も「防衛装備移転三原則」の運用指針を変えて、防弾チョッキや防護マスクなどを送った。

 政府内には防衛装備の支援を強めるべきだとする意見がある。だが、国内ルールを踏み外さず、広く国民合意を得ることが息長い支援の鉄則だ。原則を変えて武器提供をなし崩しに広げることは認められない。

 日本は先の大戦の反省から軍事大国にならないと誓い、民生分野や戦後復興で成果を上げてきた。その蓄積や強みを発揮できる支援を広げたい。だからこそ、現地のニーズを見きわめる努力も欠かせない。

 ■分断修復のパイプに

 大国が公然と国際法を犯して隣国に攻め込む蛮行を目の当たりにして、多くの日本人が不安を抱いている。その不信の視線は中国に向かう。

 不測の事態への備えを尽くすのは当然としても、安易に軍事力増強を説いたり、対中脅威論をあおったりするのは、かえって地域の緊張を高めかねない無責任な対応といえよう。

 むしろ取り組むべきは、戦争がもたらした国際社会の分断の修復に、日本の外交を主体的に発揮することではないか。

 喫緊の課題は、米中緊張の緩和だ。台湾情勢や覇権競争に起因する対立は気球問題を機に一気に深まった。中国がロシア接近を進め、軍事支援に乗り出せば、平和は遠のくどころか、新たな衝突を生みかねない。

 日米同盟を基軸としつつ、中国と歴史、経済的な結びつきが深い立場も生かし、日本は米中に自制と対話を促すべきだ。

 外交は、ロシアに対する経済制裁をより確かなものにする手立てにもなる。

 ロシアの戦費を断ち、厭戦(えんせん)機運を高めるため、日米欧は金融制裁や石油・石炭などの段階的な輸入禁止に踏み切った。だが、現地の店には今も商品があふれ、昨年の国内総生産は前年比2・1%減にとどまった。

 制裁効果が上がらない背景には、資源価格高騰に加え、インドと中国がロシアからの輸入を増やした影響が大きい。エネルギーや食料の高騰に苦しむアフリカ、アジア、中東の国々もG7など先進国への不信感を募らせ、対ロ制裁と距離を置く。

 日本はアジア諸国には経済援助を、アフリカの国々には保健医療や食料増産など生活に密着した支援を続けてきた実績がある。今こそ欧米とのパイプ役を果たすときだ。

 ■命守る包摂社会築け

 戦禍からの避難者に安全な場所を提供するのは国家の重要な責務だ。いかに息長く「人」を支えるかも課題になる。

 国連機関によると、母国を離れたウクライナ人は800万人以上。約2千人が日本に滞在する。多くが女性と子供だ。

 愛する家族を戦地に残し、文化も言葉も異なる遠い異国で暮らす心のストレスは想像を絶する。就労は可能だが、制度の違いや言葉の壁から、母国の資格やキャリアを生かせない人も少なくない。日本語教育や就労支援、心のケアなど、きめ細かいサポートが欠かせない。

 戦争長期化もふまえ、子供たちには定住も視野に幅広い学びを後押ししたい。母語を維持する場も必要になるだろう。

 日本は今回、保護を求めるウクライナ人をほぼ無条件に受け入れる異例の対応をとった。だが他の地域からの難民申請者への門戸は狭いままだ。

 ウクライナ人の受け入れを例外としてはならない。戦争や迫害を逃れてきた命は、国籍や民族を問わず守る。安心して暮らせる包摂社会を築く。そのモデルにすべきだ。

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