(社説)外苑再開発 禍根残さぬ街づくりを

社説

 東京の明治神宮外苑地区の再開発事業について、文化遺産保存の専門家らからなる日本イコモス国内委員会が、東京都環境影響評価審議会に再審を要請した。民間の事業とはいえ、歴史ある緑豊かな風致地区の街づくり。禍根が残らぬよう幅広く意見を集めて進めるべきだ。

 神宮外苑ができたのは1926年。旧青山練兵場の跡地に人工の森が造られた。渋沢栄一ら民間の運動に、寄付や樹木が全国から寄せられた。その設計には20世紀初頭の国際的な「都市美」運動の影響も指摘される。近代日本の文化的遺産であり、スポーツの中心地でもある。

 再開発は、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事の4者が進める。神宮球場と秩父宮ラグビー場を解体して段階的に場所を入れ替え、商業ビルやホテル・スポーツ関連施設などを造り、樹木の伐採と植林で「新たな風致を創出」する計画だ。

 都の都市計画審議会は昨年、再開発計画案を承認した。予定地の樹木の7割にあたる971本を伐採する計画の見直しを求める約5万1千人の署名が都に提出され、環境影響評価審議会で事業者が伐採を556本に減らすなど保全策を提示。先月、都が環境影響評価(アセスメント)の評価書を告示した。

 小池百合子都知事は「審議会での専門家からの指摘を踏まえて作成された。条例にのっとり厳正に進めていく」と述べた。

 大きな焦点が、外苑を象徴する存在であるイチョウ並木の保全についてだ。新しく造られる野球場が並木と近く、根への悪影響が懸念される。

 日本イコモスは再審要請で、評価書には多くの誤りがあると指摘。「大量の伐採・移植で生態系が崩壊する」「並木の危機的状況や科学的データが報告されず、根の調査も非公開で、検証できないデータを積み重ねている」と主張する。

 事業者側は、詳しい調査で悪影響がわかれば計画の工夫などをするとの考えだ。

 もし外苑の中軸である並木が枯れれば、景観を大きく損ねる。慎重な調査、検証可能で丁寧な情報公開、そして納得性の高いアセスの手続きが必須だ。

 再開発には色々な要素が絡み合う。190メートルと185メートルの高層ビルが建つ。オープンスペースは増え、スポーツ施設は新しくなる。計画見直しを求める超党派の国会議員連盟もある。多くの人が関心を寄せている。

 都市の中で人々が集う公園として長く親しまれてきた地区のあり方は、公共性が高い。可能な限り多様な声を集めて、都心の緑豊かな景観と憩いの空間を次世代に伝えてほしい…

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません