ユーミン、まぶた閉じればそこに 展覧会「ユーミン・ミュージアム」

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 デビュー50周年を迎えた松任谷由実の歩みをたどる展覧会「ユーミン・ミュージアム」が、東京・六本木で開催中だ。直筆の楽譜や歌詞、貴重なステージ衣装のほか、生家に残っていた私物も展示されている。東京近郊の八王子の呉服店に生まれた少女は、いかにしてユーミンになったのか。ゆかりのあるアーティストがおすすめの1曲を選び、魅力を語った。(小川奈々)

 ■本当のポップス、走り続けて半世紀 「サカナクション」・山口一郎さん

 ロックバンド「サカナクション」の山口一郎さんは、ラジオで対談するなど、ユーミンとたびたび音楽談議をしてきた。そして今、50年にわたり走り続けてきたユーミンを「本当のポップスを作り続けてきた女王」と表現する。

 自身もバンドでボーカルを務め、作詞作曲をする山口さんは、もっと多くの人に受け入れられる音楽を目指し、ユーミンに「ポップスを作ってみたい」と相談したことがある。そのとき「あんた、もう作ってるじゃない! 5年後に評価される音楽がポップスなのよ」と背中を押された。

 「ユーミンさん自身、若者たちのカルチャーを音楽を通じて作った方。時代を見通す力があり、音楽業界と大衆のどちらからも愛された、すさまじい存在です」

 おすすめの1曲に選んだのは、「返事はいらない」だ。爆発的なヒットとはいかなかったデビュー曲だが、聴くたびに「ものすごい覚悟をもって歌ったのだろうと感じます」と話す。「ニューミュージックが台頭してきた時代の濃さも感じる曲。音楽制作におけるユーミンさんの原液を浴びた気持ちになって、固まってしまうと同時に励まされます」

 ■女性の可能性広げた、時代の開拓者 小説家・山内マリコさん

 「ユーミンの音楽は女性の可能性を広げた」。そう断言するのは、小説家の山内マリコさんだ。昨年、12時間にわたる本人への取材を元に、荒井由実がデビューするまでをつづった「すべてのことはメッセージ 小説ユーミン」を執筆した。

 ユーミンの鋭い感性が育まれた1960年代や、デビュー当時の70年代は、女性シンガー・ソングライターの存在自体が珍しかった。山内さんがおすすめする「翳(かげ)りゆく部屋」の原曲も14歳で書き上げていたが、作曲家としてデビューした際、アレンジを変えて男性歌手が歌った。

 山内さんは「クラシックとブリティッシュ・ロックに影響を受け、コード進行も斬新。歌謡曲とは一線を画すしゃれたセンスがあった」と分析。それに加え「10代の女の子によるリアルな歌詞は新しく、ふさわしい既存の歌手がいなかった」。その言葉通り、ユーミンは楽曲を自分で歌い表現する、新たな存在として道を切り開いていった。

 「自然にあふれる風景や音を豊かに感じ、音にも色を感じ取る感覚は詩人に近いと思う。作家性を曲げずに道なき道を進んだ姿は、まさに時代の開拓者だと感じます」

 ■柔軟さが生み出す「懐かしい未来」 アートディレクター・森本千絵さん

 ピアノの前に座ったユーミンと、譜面から舞い上がる音の粒……。展覧会のキービジュアルを手がけたのは、アートディレクターの森本千絵さんだ。

 三つのアルバムのアートワークを手がけ、本人とも親交が深い。ユーミンを「水のような人」と話す森本さんは、「MODÈLE」を選んだ。この曲を聴くたび、体の中の水が震えるような心地になるという。

 「『時と呼べない うたかたのとき でも いくどとなく 夢で逢(あ)う花になるわ』という一節がお気に入り。懐かしいものや新しいもの、光や音が時空を超えて曼荼羅(まんだら)のようにコラージュされているように感じます」

 ユーミンから「懐かしい未来」という言葉を聞き、「過去が今をつくり、未来とつながっていると教わった」と明かす。「双方に耳を澄ませ、感性を磨きながら柔らかく進む姿に感銘を受けています。その姿勢があるからこそ、時代や世間が変わっても、ユーミンの曲は輝き続けて、星座のようにメッセージをくれるのだと思います」

 ■音声ガイド、スマホなら無料で

 山口さん、山内さん、森本さんも参加した音声ガイドは、アーティストによるおすすめの1曲のほか、ユーミン自身による展示解説を聞くことができます。ご自身のスマートフォンがあれば来場者無料。お持ちでない方は実機の有料貸し出しもあります(300円)。

 ■一緒に実家へ―― あの歌詞の直筆も、夜抜けのらせん階段も

 「私はつくったときの資料をあまり残していないの」。前に向かって走り続けるユーミンらしいこの一言から、展覧会の準備が始まりました。ツアー衣装や資料は事務所に大切に保管されていましたが、「原点」であるデビュー前のものは見当たりません。

 「もしかすると実家には結婚する前のものが残っているかもしれない」。わずかな希望を頼りに、ユーミンが結婚するまで住んでいた、八王子の実家を訪ね、作品調査をしました。

 現在は誰も住んでいない家に足を踏み入れると、築50年を超えているとは思えないモダンなつくりに驚かされ、こういう場所でユーミンのセンスが育まれたのだと感動しました。

 ユーミンの部屋だったという2階の部屋には有名な「夜抜けのらせん階段」がありました。部屋から直接外に出られるようになっていて、この階段が、10代のユーミンを六本木や銀座の最新音楽シーンにつなげていたと思うと、設計者に感謝の気持ちすら生まれます。

 部屋に積まれた紙の束の中に高校生時代のスケッチブックがありました。そこには、急須などのデッサンとともに、いまも歌い継がれる「ひこうき雲」など名曲の歌詞やコード進行が書き込まれています。「こんなところに書いていたのね。絵を描きながら曲も作っていたのよ」とユーミン。床のカーペットには、ユーミンが弾いていたピアノの脚の跡がまだはっきりと残っていました。

 昔の写真アルバムを見て、うっすら涙を浮かべたユーミン。展覧会では、これらの資料とともに、名曲を生んだそのピアノ、そしてユーミン自身が語る当時のエピソードも紹介しています。(君和田敬之)

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 ■東京・六本木で、来月26日まで

 ◇2月26日[日]まで、東京・六本木の東京シティビュー。午前10時~午後10時、会期中無休

 ◇一般2500円、高校・大学生1700円、4歳~中学生1200円、65歳以上2200円。音声ガイド付き。屋内展望料金を含む。事前の日時指定券の購入を推奨

 ◇展覧会公式サイト https://yumingmuseum.jp/別ウインドウで開きます

 ◇問い合わせ 東京シティビュー(03・6406・6652)

 主催 東京シティビュー、朝日新聞社、NHKプロモーション

 企画協力 雲母社、ユニバーサルミュージック

 協力 NHK

 協賛 Spotify、JTB

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