(社説)武器の輸出 安易な拡大認められぬ

 武器輸出や技術提供の厳しい自制は、平和国家の根幹を支え、国民の多くから長年支持されてきた。敵基地攻撃能力の保有や防衛費の「倍増」に加え、この原則まで空洞化するような見直しは認められない。

 政府が週内に改定する安保関連3文書には、「防衛装備移転三原則」と運用指針の見直しを検討すると明記される方向だ。

 政府の有識者会議は、防衛産業を育成・強化する観点から、移転拡大に向け、「制約をできる限り取り除く」よう提言している。内容次第では、武器輸出の縛りのさらなる形骸化が懸念される。

 そもそも、この三原則は、第2次安倍政権が2014年、半世紀にわたり維持されてきた「武器輸出三原則」に代わって定めたものだ。

 武器の輸出を原則禁じ、認める場合はあくまで例外扱いとする方針を見直し、(1)紛争当事国などを除く(2)平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する(3)目的外使用や第三国移転に事前同意を義務づける――の三条件を満たせば認めることになった。

 政府は今年5月までに、米英豪印、タイ、ベトナムインドネシアなど計12カ国と防衛装備品・技術移転協定を結び、主に関連技術の共同研究を進めてきた。2020年には、完成品の移転として初めて、フィリピンへの三菱電機製の警戒管制レーダー納入が決まった。

 友好国との協力を深め、地域の安定に資するような取り組みなら意義はあろう。ただ、紛争を助長する武器の輸出国にはならないという基本的な精神は守られねばならない。

 その点で、見過ごせないのが、政府や自民党内に、戦闘機や護衛艦など、殺傷能力のある兵器の輸出に道を開きたいという意向があることだ。

 政府は先週、航空自衛隊の次期戦闘機を、英国、イタリアと共同開発すると発表した。完成品を将来、第三国に輸出する可能性について、浜田靖一防衛相は「英国が輸出を重視していることを踏まえ検討したい」と述べた。三原則の緩和を見越した合意だとしたら、なし崩しの転換と言わざるを得ない。

 三原則と運用指針の見直しを岸田首相に求めた自民党の4月の安保提言は、ウクライナを例に挙げ、「国際法違反の侵略を受けている国に対し、幅広い装備の移転を可能とする制度」の検討を盛り込んでいる。

 ロシアの侵略は断じて許せず、各国がそれぞれの方法でウクライナを支援するのは当然だ。しかし、それを攻撃用兵器の輸出につなげる口実にするのは許されない…

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