(社説)五輪談合事件 徹底検証に踏み込め

社説

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 国内全体を巻き込んだ巨大事業に、公正さ、透明性を重んじる意識が決定的に欠けていたのではないか。

 東京五輪パラリンピックに関わる入札で談合の疑いが新たに表面化した。組織委員会をめぐっては、元理事が受託収賄罪で4度起訴されたばかりだ。五輪と組織委が生んだ癒着に徹底的な解明が求められる。

 組織委は18年、各競技の進行や警備を実際の会場で確認する「テスト大会」の計画立案業務で計26件の入札を実施した。電通など広告やイベント制作の企業9社と共同企業体一つが落札。契約は計5億4千万円だった。その後、落札企業は計画をもとに開いた56件のテスト大会と五輪本番の運営業務をいずれも随意契約で受注。総額は数百億円に上るとみられるが、情報公開は極めて不十分なままだ。

 調整は、落札企業などから組織委に出向した職員らと電通の社員が主導。各企業に意向を聞いた上で、落札候補の一覧表も作成していたという。東京地検公正取引委員会は、こうした行為が独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いがあるとみて合同で調べている。

 容疑が事実なら、発注側と受注側がほぼ丸ごと談合する、異常な事態だ。深刻な不信を突きつけられるのも当然だろう。

 その実態は調整の末に大半が他に競合がない「1社応札」だったという。受注額は落札企業の言い値になったと考えるのが自然だ。経費削減を掲げた組織委が、水面下で逆行する行為を平然と重ねていたことになる。

 組織委会長だった森喜朗氏や橋本聖子氏、事務総長だった武藤敏郎氏は知らなかったのか。チェックできなかったのか。リーダーの責任も問われる。

 組織委自体はすでに清算法人となっている。政府、東京都日本オリンピック委員会(JOC)が協力して創設した経緯を考えれば、三者の説明責任はいっそう重大だ。

 だが、当事者の反応は鈍い。先月末の参院予算委員会で岸田首相は「どのような検証をすべきか、検討していきたい」。具体策はない。翌日には橋本氏が「一日も早く(談合が)解明されて、新たな札幌招致のスタートが切れるようにしなければいけないのではないか」と発言。自らが率いた組織の問題だという自覚がどこまであるのか。負の構造を変えぬまま新たな五輪招致が理解されるはずもない。

 東京都やスポーツ庁は調査や検討のチームをたちあげたが、汚職と談合の土壌に切り込めるか疑わしい。政府主導で第三者委員会を作り、組織委と五輪の問題の全体像を解き明かし、公にする検証に踏み込むべきだ。

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