(社説)防衛力報告書 政治の場で徹底議論を

社説

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 戦後の日本の防衛政策の抜本的な転換を求める提言だというのに、わずか4回、2カ月にも満たない議論で、どれだけ突っ込んだ検討がなされたのか。政府の安保関連3文書の年末改定に向けた、日程優先の結論とみざるを得ない。政治の場で改めて、徹底的な議論を尽くす必要がある。

 政府が設置した「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」がきのう、岸田首相に報告書を提出した。別途、進む自民、公明による与党協議の結果も受け、政府が最終的な文書をとりまとめる段取りだ。

 報告書は、日本を取り巻く安保環境の厳しさを踏まえ、防衛力の5年以内の抜本的強化を掲げた。驚いたのは、主要テーマではないと説明されていた敵基地攻撃能力の保有が、抑止力の維持・向上のため「不可欠」だと明記されたことだ。

 専守防衛との関係はどう整理されるのか。国際法違反の先制攻撃にならないか。相手の攻撃を誘発しないか。議事要旨を読む限り、さまざまな疑問と懸念に応える議論の跡はうかがえない。「結論ありき」と言われても仕方あるまい。

 外国製のミサイルの購入を含め、できる限り早く十分な数をそろえるべきだという主張も、政府が見切り発車で米政府に打診した、巡航ミサイル「トマホーク」の導入にお墨付きを与えるものだ。

 一方、防衛費の水準については、日本の「努力」が認められる必要があるとしつつ、安保環境も国情も違うので、NATO北大西洋条約機構)の尺度は採用しないとした。NATOがめざすGDP(国内総生産)比2%を念頭に置く自民党とは一線を引いたものといえる。

 首相がこの会議に期待した大きな論点が、防衛力強化を支える財源の確保策だ。報告書は、他の予算を削る歳出改革を優先したうえで、なお足りない部分は「国民全体で負担する」とした。個別の税目はあげなかったものの、増税の必要性を明確に打ち出したものだ。

 将来の増税などで返す「つなぎ国債」は否定しなかったが、借金に頼らず、次の世代に負担を先送りしないという基本姿勢は支持できる。ただ、国民の負担増には、報告書自ら強調するように、国民全体の理解と協力が不可欠である。その大前提を忘れてはならない。

 安保3文書の改定は、国の針路にかかわる重い決定となる。幅広い国民的議論を置き去りに、政府与党だけで決めていいはずがない。遅ればせながら、まずは、この報告書について、国会の場で、野党を含めた集中的な討議を求めたい。

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