(社説)北朝鮮ミサイル 脅威の暴走に歯止めを

社説

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 平穏な朝の日常を警報がやぶり、不安と混乱に陥れる。他国の安全と市民の命を危険にさらす許しがたい暴挙である。

 北朝鮮がきのう、太平洋に向けて弾道ミサイルを発射した。青森県付近の上空を越え、太平洋上の日本の排他的経済水域の外側に落下したとみられる。

 日本政府によると飛行距離は過去最長の約4600キロ、最高高度は約1千キロという。幸い落下物や、船舶や航空機の被害は報告されていないが、事前通告はなく、まかり間違えば大惨事になるところだった。

 韓国で対米関係を重視する尹錫悦(ユンソンニョル)政権が誕生し、対北抑止のための日米韓の連携が強まるなか、相次ぐ米韓、日米韓の軍事演習を牽制(けんせい)する政治的な意図もこめられているのだろう。今回の飛距離はグアムの米軍基地を射程におさめる。

 北朝鮮は先月来、ミサイル発射を繰り返してきた。いずれも短距離だが、迎撃が難しい変則軌道もあったとみられる。核実験の準備も整えた模様だ。

 思い出すのが、前回、北朝鮮のミサイルが日本上空を越えた5年前である。この時もその前からミサイル発射を繰り返し、同時期に6回目の核実験を強行した。エスカレート再現を許してはならない。弾道ミサイル発射も核実験も国連安保理決議違反であり、暴走を止める手立てを早急に講じる必要がある。

 憂慮されるのは、ロシアのウクライナ侵攻で生じた国際社会の亀裂に乗じ、北朝鮮が核・ミサイル能力の向上を加速させることだ。かねて長期計画に基づく兵器開発を進めると公言してきたが、金正恩(キムジョンウン)総書記は9月の演説で「絶対に核は放棄しない」と言明した。

 ここで暴挙に出ても、欧米との対抗姿勢を強めるロシアと中国が新たな制裁に反対してくれると踏んでのことだろう。

 そんなもくろみを許さず、不測の事態に備えるためにも、日米韓の結束と、安全保障協力を含めた連携強化が必要だ。

 ミサイル発射をめぐる情報収集では、日米韓それぞれ得意分野は異なる。3カ国の情報を広く共有し、市民の命と安全を守る策を尽くしてほしい。

 他方、制裁や軍事演習などの強硬策で北朝鮮のふるまいを全面的に改めさせた前例がないことも、忘れてはなるまい。日韓国内では、北朝鮮の挑発を敵基地攻撃容認に安易に結びつけようとする動きがあるが、立ち止まって慎重に考えるべきだ。

 破局をもたらしかねない核・ミサイルの脅しが、中ロの国益にもかなわないことを両国に説くことも含め、北朝鮮を対話に戻すための硬軟あわせた知恵が今こそ、必要だ。

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