(社説)五輪汚職 札幌招致どころでない

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 疑惑はどこまで広がるのか。

 東京地検は、東京五輪パラリンピック大会組織委員会の高橋治之元理事を受託収賄の罪で起訴し、新たな容疑で再逮捕した。出版大手KADOKAWAから大会スポンサーに選定してもらいたいとの依頼を受けるなどし、見返りに知人の会社名義の口座に約7600万円を入金させた疑いが持たれている。

 ほかにも、広告大手の大広との間でも不透明な金の動きがあったとされ、地検は関係先を家宅捜索している。

 コロナ下での強行開催によって、そうでなくても五輪に不信と疑念が向けられるなか、「平和の祭典」の暗部がえぐり出され、深い失望が社会を覆う。

 ところが五輪熱に浮かれた人々は、そうした状況を理解し、どう行動すべきかを判断する能力を失っているようだ。

 30年冬季五輪の招致をめざす札幌市の秋元克広市長は、元理事が逮捕された後も、今月中旬に国際オリンピック委員会(IOC)本部を訪問することで調整を進めてきた。それがおととい、急きょ中止を発表した。関係者によると、IOC側から「タイミングが悪い」との返答があったという。

 事件は海外でも報道され、関係者は捜査の行方を注目している。五輪の運営のどこに問題があり、こうした不祥事を引き起こさないためにどうしたらいいかの検討もないまま、IOC詣でをして、いったい何の話をするつもりだったのか。

 東京の「開催ありき」同様、札幌の「招致ありき」と一般市民の感覚や常識との間には、埋めがたい大きな溝がある。

 日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長も、市長に同行する予定だったというのだからあきれる。

 組織委にはJOCからも職員が派遣され、山下氏自身、副会長を務めていた。容疑のとおりであれば、高橋元理事の逸脱を招いた当事者であり、重い責任を負う立場にある。その自覚があれば、いまは招致活動どころではないはずだ。

 「残念というか、悲しいような。ニュースを見るたびに悲しく、つらい思いをしている」

 会見でそんな発言しかできない、スポーツ庁の室伏広治長官にも失望を禁じ得ない。

 JOCを含め、スポーツ団体が組織を維持し、種々の大会を開催するには資金がいる。スポンサーを確保するなどしてその手当てをしてきたのが、高橋元理事の出身母体である電通をはじめとする広告会社だ。

 今回の事件をどう受け止め、「電通支配」と評される現状をどう変えていくか。スポーツ界全体が背負う重い課題である。

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