(社説)安倍氏「国葬」 疑問は膨らむばかりだ

社説

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 数々の疑問に答えず、社会に亀裂と不信を残したまま、既成事実を積み重ねるつもりなのか。岸田首相は、国民から厳しい目が注がれていることを自覚し、立ち止まるべきだ。

 政府はおとといの閣議で、安倍元首相の「国葬」の経費として、国会審議を必要としない予備費から2億5千万円を支出することを決めた。警備費などは含まれておらず、政府は全体像を明らかにしていない。

 先月、岸田首相が国葬とする方針を示して以来、社説は、国葬について規定した明確な法令がないなか、なぜ異例の形式をとるのか。元首相の業績や言動に対する自由な論評を妨げることにならないか――などについて丁寧に説明するよう、首相に繰り返し求めてきた。

 ところが1カ月経っても首相はその責任を果たさず、いまも国民に向き合おうとする姿勢を見せない。疑問は解消するどころか、膨らむばかりだ。

 報道各社の世論調査では国葬の賛否は二分し、むしろ否定的な意見の方が強くなっている。首相が逃げ続けていることも、一因ではないのか。

 戦後、国葬が行われたのは55年前の吉田茂氏だけで、近年の首相経験者は政府と自民党の合同葬が慣例だった。

 安倍氏は憲政史上最長の8年8カ月間、首相を務めた。だがその政策の評価はいまだ定まらず、「モリカケ桜」では政権を私物化した疑惑がぬぐえない。加えて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係も明らかになってきている。

 教団の「友好団体」に賛同のビデオメッセージを送るなどしただけでなく、16年に教団側の支援を受けて当選したという前参院議員は、次の選挙でも同様に応援してもらえるよう安倍氏に頼んだが難しいと言われ、立候補を断念したと話している。裏でどんな動きがあったのか。

 首相は、教団と関係を持たないことを自民党のガバナンスコードに盛り込み、チェック体制を強化すると表明した。であれば安倍氏についても調査を尽くし、明らかにするのが当然ではないか。その作業抜きに「国民の皆さんの不信を払拭(ふっしょく)する」といっても説得力を欠く。

 国費の支出を決める一方で、政府は首相経験者らの葬儀の際に行ってきた弔意表明の閣議了解を見送った。反発が一層強まるのを警戒したのだろう。

 権力が内心に立ち入り、追悼を強制するなどあってはならない。全国の自治体や教育委員会も、学校に半旗の掲揚を促すようなことは厳に慎むべきだ。

 これについても、国会の場で岸田首相自身が、政府の考えをしっかり説明する必要がある。

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