(社説)中国軍事演習 無責任な威嚇をやめよ

社説

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 自らの意に沿わぬ言動に接すると、武力で威嚇し、外交の扉も閉ざす。こんなふるまいでは、平和発展を志向する大国とは誰も認められない。

 中国が台湾周辺の区域で、大規模な軍事演習を続けている。ペロシ米下院議長の訪台に抗議し、「結託する米国と台湾を震え上がらせるものだ」と、中国国防省は公言している。

 区域は台湾を囲み、まるで封鎖するかのようだ。艦船や戦闘機多数が参加し、複数の弾道ミサイル発射された。うち5発が日本の排他的経済水域内に落下した。台湾本島上空を通過したものもあったという。

 演習名目とはいえ、危険極まりない。地域の安全保障環境を揺るがす無謀な行為である。

 日米など主要7カ国の外相は緊張悪化を懸念する共同声明を出した。これを中国外相は「紙くず」と呼び、予定された日中外相会談を取りやめた。米国に対しては、軍同士の協議や気候変動問題を含む多分野の対話を取りやめると発表した。

 中国からすれば、事前の警告に耳を貸さなかった米台の側に非があり、日本も突き放すということのようだ。

 しかし、議員外交をめぐる摩擦を理由にこれほどの軍事力を動員するのは、明白な過剰反応だ。異論があるからこそ対話で意見をぶつけ、打開を探るのが責任ある国家の態度である。

 中国外務省は「台湾問題で日本は歴史的な罪を負っており、とやかく言う資格はない」とする。台湾の植民地支配という過去が日本にあるのは事実だが、自国と近隣を脅かす現状を座視できないのは当然だ。

 中国メディアは大々的に軍事演習の様子を報じている。秋の党大会を前に、共産党政権は軍の動きを国威発揚に利用し、求心力を高めたいという内向きの狙いがあるのだろう。

 だが、ゆがんだナショナリズムを増長させる恐れはないのか。国民感情が高まれば、逆に中国指導部が外交の幅を狭められはしないか。危うい動きと言うしかない。

 日中関係は今年9月に国交正常化50周年の節目を迎える。

 これに向け、両国は岸田首相と習近平(シーチンピン)国家主席の首脳協議を模索してきたが、その先行きも不透明になってしまった。日中関係の今後の行方を憂慮せざるをえない。

 日本も米国も冷静な対応に努めるべき時だ。来日したペロシ氏と岸田首相は会談し、台湾海峡の平和と安定のための日米の連携を確認したという。

 これ以上の情勢悪化は誰の利益にもならない。その現実を日米はくり返し中国側に説き、強く自制を促したい。

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