(社説)難民の受け入れ 「人権」「公正」の実現を

社説

[PR]

 国際基準との隔たりは大きく、「難民鎖国」の汚名の返上ははるかに遠い。そう言わざるを得ない。

 出入国在留管理庁が昨年中の難民認定状況を発表した。

 難民条約に基づく「難民」とされたのは74人で、日本が加入した1981年以降最多となった。だが国軍によるクーデターが起きたミャンマー情勢が影響したもので、認定行政に大きな変化があったわけではない。

 世界各地で対立や争いが絶えず、毎年数千人から数万人の規模で難民を受け入れる国があるなか、日本は直近10年間をみても50人を超えたことはなく、国内外の批判を浴びてきた。

 政府は条約上の難民の定義をもとに、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見の観点から「迫害を受けるおそれがある十分な理由」があるか否かを精査し、証明する文書などを個別に要求する。証言してくれる人を見つけるのも困難で、不可能を強いるに等しいと指摘されて久しい。

 一方、国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、実際に起きている人道危機に目を向け、たとえば性自認を理由とする迫害も救済の対象にするなど、認定に関する指針を適宜見直している。多くの国はこれに準拠して行動するため、乖離(かいり)は広がるばかりだ。

 昨年は、施設に収容されていたスリランカ女性の死亡を機に入管当局の閉鎖的な体質に注目が集まり、難民認定申請中の人を送還しやすくしようとした入管法改正案は廃案になった。

 入管庁は今年1月、「広い視野」「公正な目と改善の意識」「人権と尊厳を尊重」などをうたった「職員の使命と心得」を定めた。この考えを踏まえ、難民認定のあり方についても抜本的な見直しが求められる。

 難民とは別に、昨年は「人道的配慮」で580人(うちミャンマー国籍が498人)の在留が認められた。前年の44人からの大幅増となったが、あくまでも「配慮」の対象であって保障される権利は弱い。難民認定の代わりにはなり得ないことに留意しなければならない。

 ウクライナの戦禍を逃れて来日した人は、既に900人を超す。政府が緊急措置で入国に道を開いたのは当然だが、イスラム主義勢力が再び権力を握ったアフガニスタンをはじめ、保護が必要で日本への渡航を望む人は他にもたくさんいる。二重基準は不信をさらに深める。

 ただ受け入れるだけでなく、仕事や教育機会の確保、相談窓口の整備などが不可欠なのは、改めて言うまでもない。より広い保護と、より深い支援に取り組むのが国の責務だ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    福田充
    (日本大学危機管理学部教授)
    2022年6月20日22時3分 投稿
    【視点】

    今日6月20日は、「世界難民の日」です。 僕がこの世界の難民問題について知り、真剣に考え始めたのは大学1年のとき、緒方貞子先生の講義や講演を聞いたことがきっかけでした。当時の緒方先生は国際政治学者として大学で研究教育されていましたが、当時

    …続きを読む