(社説)武器の提供 なし崩し拡大を危ぶむ

社説

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 ロシアの侵略は断じて許せず、各国と協調して、ウクライナを支援するのは当然だ。ただ、前例のない戦争当事国への装備品の提供である。より丁寧な説明と手続きの透明性が求められる。ましてや、これを機に武器輸出の原則をさらに緩めようとすることは容認できない。

 ウクライナ側からの要請を受け、政府は先月、防弾チョッキやヘルメット、テント、非常用糧食などを送った。今月はさらに、化学兵器に対応する防護マスクや防護衣、ドローンを追加すると発表した。

 ドローンは米国などが提供している攻撃用とは異なり、武器は積めず、搭載するカメラで状況把握に用いることが想定されている。とはいえ、現地では、ロシア軍の位置を探るのに使われ、攻撃に役立てているともいわれる。身を守るための防弾チョッキや防護マスクとは、性質が違うことは否めない。

 日本は「武器輸出三原則」の下、半世紀にわたり、武器の輸出を原則禁じてきた。だが、第2次安倍政権が2014年、これに代わる「防衛装備移転三原則」を制定。(1)紛争当事国などを除く(2)輸出を認める場合を限定し、厳格に審査する(3)目的外使用や第三国移転に事前同意を義務づける――を満たせば、輸出が認められるようになった。

 ウクライナは戦争下にあるが、新三原則が輸出を禁じる紛争当事国の定義は、国連安全保障理事会の措置を受けている国のため、当たらない。ただ、輸出を認める事例を具体的に列挙した運用指針のいずれにも該当しないため、政府は急きょ、指針を改め、ウクライナ支援の項目を追加した。また、ドローンについては、市販品を購入したもので、そもそも三原則の対象にならないと説明した。

 今回の支援の内容が国民に理解されたとしても、今後、指針の変更という同様の手段で、なし崩しに対象が拡大することにならないか。朝鮮戦争時の北朝鮮湾岸戦争時のイラクしか当てはまらない紛争当事国の定義は適切か。国会での徹底した議論を求めたい。

 自民党が今週、岸田首相に提出した安保提言には、反撃能力の保有などとともに、新三原則の見直しが盛り込まれた。ウクライナを例示し、「国際法違反の侵略を受けている国に対し、幅広い装備の移転を可能とする制度」の検討を求めている。殺傷能力のある攻撃兵器も提供できるようにする狙いだろう。

 日本の平和主義の根幹にかかわる重大な方針転換を認めるわけにはいかない。現下の国際情勢を直視しつつも、中長期的、総合的な視点にたった冷静な議論こそが必要だ。

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