(10代の君へ)没頭できるものを救いに 大木亜希子さん

10代の君へ

[PR]

 10歳の時、自宅で歯科を開業していた父が病気で倒れ、半身不随になりました。男子から「(歯医者が)倒産したんだろ」とか言われるようになって。もう普通ではいられないんだと思いました。

 父が亡くなったのは中学3年のころ。これから私も家庭を支えなきゃいけない、という気持ちが強かったですね。地元の県立高校1年の時に大手芸能事務所にスカウトされ、これで母を楽にできる、と思いました。

 芸能界と高校生活の両立は、つらいことも少なくありませんでした。出演したドラマの役で男性アイドルと腕を組んだら、友達だった子が口をきいてくれなくなったんです。2年生から私立高校の芸能コースに転校したことで救われましたが、それまで針のむしろ状態でした。

 仕事もうまくいかないことばかり。ドラマの役のオーディションを何回受けても受からない。高校を卒業するころには事実上の「戦力外通告」も受けてしまいました。敗北感を抱え、自暴自棄になっていました。知人からアイドルグループ「SDN48」のオーディションに誘われ、すがりつくように加わりました。

 それでも何とかやってこられたのは、私には読書という逃げ場があったからだと思います。小さい頃から姉の部屋や学校の図書室で、歴史小説とかミステリーやホラーを読みあさっていました。いまのもの書きの仕事につながったと思います。

 SDN48の解散後、地下アイドルを経て、ウェブメディアのライターになりました。その後独立し、元アイドルを追跡取材したノンフィクションや、自分の半生を振り返る私小説を刊行しました。

 10代の経験から思うのは、救いになるようなものを見つけてほしいということです。将来に役立つかどうかはともかく、心から没頭できるものを馬鹿にされても続けてほしい。私は芸能界で花が咲かず地下アイドルもやった。そんな経験をいま全部書くことに注げているんです。(聞き手・高浜行人)

     *

 おおき・あきこ 1989年、千葉県生まれ。俳優活動を経て2010年にアイドルグループ「SDN48」に加入。12年にグループが解散し、18年に作家・ライターとして独立。今年3月に小説「シナプス」(講談社)発刊

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら