(社説)日ロ交渉中断 懐柔外交から脱却せよ

社説

 侵略戦争を始めたロシアの現政権には、国際法や合意を守る意思はない。平和条約を話し合う意義はすでに失われていた。むしろ、日本側から交渉中断を表明しておくべきだった。

 ロシア政府が、日本の対ロ制裁への対抗措置を発表した。平和条約や共同経済活動をめぐる交渉などをやめるという。日本が「互恵的な協力や善隣関係」を損なっていると非難した。

 日ロ間には北方領土問題があるため、戦後80年近く平和条約が結ばれていない。互いに好ましくない関係の改善へ向け、対話するのは大切なことだ。

 しかしロシアは近年、交渉に真剣に臨む態度ではなかった。北方四島がロシア領だと日本が認めることを前提にするなど、強硬な主張を重ねてきた。

 今さらの交渉中断は、この機に乗じて日本に責任を転嫁したにすぎない。岸田首相は揺らぐことなく、無法な侵攻に決然と抗議していくべきだ。

 四島での共同経済活動は、2016年に安倍元首相プーチン大統領が合意した。これもロシア側は当初から実現させる気はなかったのだろう。

 日本側がのめないことを知りながら、経済活動にロシア法を適用すると主張してきた。今月は四島に免税特区をつくる法律を定め、日本以外の外資導入を進める考えを鮮明にした。

 極めて残念なのは、元島民らを対象にした四島との「ビザなし交流」も中止すると表明したことだ。91年に来日した当時のゴルバチョフ・ソ連大統領の提案で始まり、住民間の相互理解に役立ってきた。

 両国の立場を超えて続いてきた四島訪問の枠組みとしては、冷戦時代から続く墓参もある。旧島民は高齢化が進んでいる。今回の声明では言及がないが、人道的な観点からも継続の道を探ってもらいたい。

 これまでの岸田首相の対応には疑問を抱かざるをえない。ロシアがウクライナ侵攻を始めた後も、平和条約交渉について「展望を申し上げる状況にはない」などと煮え切らない発言を繰り返してきた。領土や主権の尊重など平和条約の役割を踏まえれば、交渉は意味を持たないことは明らかだった。

 プーチン大統領に懐柔的な姿勢をとり続けた安倍政権の失敗を繰り返してはならない。14年にロシアがクリミア半島を占領した後も、前のめりに条約交渉にこだわり、主要7カ国(G7)の足並みを乱した。

 当時の米欧日の甘い対応が、プーチン氏を増長させた可能性は否めない。安倍政権を外相として支えた岸田氏には、当時の外交を検証し、対ロ政策を基本から立て直す責任がある…

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません