(社説)札幌五輪招致 ゴーサインには遠い

社説

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 これで「一定の支持を得た」と言って、どれだけの人が理解するか。「招致ありき」で突き進めば、将来に大きな禍根を残すことになりかねない。

 30年冬季五輪パラリンピックの開催をめざす札幌市が、市民らに賛否を聞いた意向調査の結果(速報値)を発表した。

 郵送、インターネット、街頭の3種類の調査すべてで、賛成が5割を超えたという。秋元克広市長は会見し、招致活動を加速させる考えを明らかにした。

 驚いたのは、結果とともに公表された調査のやり方だ。

 「北海道・札幌が将来にわたって輝き続けるためのプロジェクト」「共生社会の実現に貢献」「税金は投入しない」といった、大会に関して市が打ち出している前向きの考えや計画を繰り返し説明したうえで、賛否を問うている。回答をゆがめる恐れがあり、世論調査では注意しないといけない手法である。

 ここまで「誘導」してなお、比較的信頼できる郵送調査で賛成が52%、反対が39%だった事実にこそ目を向けなければならない。単純に比べられないが、14年に市が実施した市民アンケートでは、賛成67%、反対21%だった。市長は「活動の加速」ではなく、足を止めて市民の声を冷静に分析することに、まず取り組むべきだ。

 背景に五輪そのものへの不信があるのは間違いない。

 コロナ下で強行された東京五輪は、「平和の祭典」のひずみを人々の前に明らかにした。

 動き出した以上は開催が何より優先され、国民の生命・健康や日々のくらしもないがしろにされた。五輪憲章が掲げる理念は、先鋭化する商業主義をはじめとする現実の前に大きく揺らぎ、国際オリンピック委員会の独善的な体質も怒りを買った。

 こうした問題を日本はどう考え、改革に向けて今後何をしていくのか。人々はそれを知りたいのに、市も国も「臭いものにはふた」とばかりに、誠実に向き合ってこなかった。

 意向調査に先立ち、オンライン方式で市民と市との意見交換会が2度開かれた。

 少子高齢化をはじめ、市が抱える課題を解決することと五輪はどう関係するのか。開催の意義に迫る質問も出たが、納得できる答えが示されたとは言えない。東京五輪は「復興五輪」を銘打ちながら内実を伴わず、理念を欠いたまま迷走して社会に傷を残した。その轍(てつ)を踏むことになりはしないか。

 市は、再度の意向調査も、外国の他都市が五輪開催をめぐって実施したような市民投票も、考えていないという。

 このまま走っていいのか。疑念が膨らむ「賛成5割」だ。

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