(社説)ネットの履歴 「利用者の利益」重視を

社説

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 社会基盤になったネット上で事業を展開する企業には、相応の責任が伴う。利用者の利益の保護がその基本であることを、確認する必要がある。

 総務省が学者や弁護士らを集めて昨年発足させた「電気通信事業ガバナンス検討会」が、報告書案をまとめた。電気通信が電話からネット上の様々なサービスにまで広がり、その担い手も多様化した現状を踏まえ、利用者や社会の利益を守るには法制度が関わる範囲を広げる必要があると指摘した。方向性はおおむねうなずける。

 ところが、最終盤に経済界からの異論で議論が曲折した。焦点の一つは、ウェブサイトの閲覧履歴などを第三者に送信する場合に、利用者が確認する機会をどう確保するかだった。

 こうした利用履歴は必ずしも「個人情報」には当たらない。送信先で個人の特定が想定される場合は、今春施行の改正個人情報保護法の規制対象になるが、検討会では当初、さらに規制を広げ、外部送信そのものも原則として利用者の同意を必要とする意見が出たという。

 しかし経済界側が規制拡大に強い異論を表明。結局、原則は利用者への通知・公表でもいいという内容になり、検討会メンバーからは「大幅な後退」として問題視する声も出た。

 経済界は、規制強化が技術革新を妨げることを懸念したのだろう。確かに過剰で不透明な規制になれば問題だ。だが、従来も「通信の秘密」の保護が通信事業の発展の基盤になってきた。ネット上の情報の扱いで利用者の信頼を得られる適正なルールを課すことは、さらなる利用を促し、結果的に事業者にも利益をもたらすはずだ。

 ネット履歴の扱いでは、広告表示などについて、利用者の不信や不安が繰り返し指摘されてきた。欧州などでは規制が強まり、一部のIT大手は、すでに代替手段を探っている。利用者が幅広く受け入れる制度を前提に切磋琢磨(せっさたくま)するほうが、企業の競争力も増すのではないか。

 経済界からは、個人情報保護法との「二重規制」になると批判する声も出ている。確かに重なる部分はあるが、ネットの基盤をなす電気通信サービスを利用する上での安心確保のため、個別の事業法で規制を上乗せすることは十分理解できる。今後の具体的な法改正への過程で、さらに議論を深めて欲しい。

 プラットフォーム事業や通信の影響は多岐にわたり、今後も幅広い議論が必要だ。ただ、制度があまりにつぎはぎになれば、利用者にとっても見通しが悪くなりかねない。制度設計の際は、体系的に分かりやすく整理することも意識すべきだ。

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