(社説)無差別殺傷 孤立社会の病が見える
無差別に人々を襲い、自らも死を望む。そんな事件が続く。
本人の供述や犯行に至る経緯から見えてくるのは、社会からの孤立であり、人生に対する絶望だ。男子高校生が大学入試の会場前で受験生らを刺して傷つける事件も起きた。世代を超えた広がりを憂慮する。
昨年10月には、東京の京王線車内で乗客が刃物を持つ男に襲われた。20代の容疑者は失業や友人関係のトラブルから3カ月前に故郷を離れていた。警察の調べに「死のうと思ったができず、2人以上殺せば死刑になると思った」と話したという。
これに先立ち、8月に小田急線内であった刺傷事件でも、30代の容疑者は職を転々としてきた独り身の境遇を嘆き、「なんて不幸な人生なんだ」などと口にしたとされる。
そして大阪・北新地の雑居ビルでクリニックが放火された事件だ。25人が犠牲になった惨劇から1カ月が経つ。61歳の容疑者の男も死亡した。動機の解明は極めて困難になったが、当局は周辺への捜査を尽くし、真相に少しでも迫ってほしい。
男は11年前、家族に対する殺人未遂罪で懲役4年を言い渡されている。判決は、離婚後の孤独感から自殺を考えるなか、人を殺せば死ねるのではないかと思ったと認定。「家族以外との関わりを持つことができれば、更生は十分可能」と述べた。
しかし、刑務所を出た後も身寄りのない生活だったとみられる。防犯カメラに自ら炎に向かっていく映像が残っており、関係のない他人を巻き込んで自殺を図った可能性がある。
こうした犯罪から何を読み取り、再発の防止につなげるか。
やや古くなるが、法務省の研究機関は13年に「無差別殺傷事犯に関する研究」と題する報告書をまとめている。
それによると、同種事件を起こした52人の主な動機は「自身の境遇や現状への不満」が半数近くを占めて最も多く、犯行の前後に自殺を図った例もほぼ半数あった。特徴的な傾向として、交友関係の乏しさ、無職・無収入など生活の困窮を挙げ、事件防止の観点からも自殺者をなくす対策の充実・強化が望まれると提言した。
コロナ下で自殺者が11年ぶりに増加したことなどを受け、政府は「孤独・孤立対策」に取り組む。昨年末には、官民連携による24時間相談体制の構築などを柱とする重点計画を定めた。相次ぐ事件の原因や背景についても考察を深め、「望まない孤立」の解消に向けた手立てを、着実に進める必要がある。
病巣を探り、さらなる悲劇を防ぐことに、政府はもちろん、社会全体で取り組みたい。
- 【視点】
いずれのケースも被害者のことを思うと胸が痛くなるような犯罪ではあるが、その背景に何があったのかを考えることは、とても大切なことだ。 こうした犯罪が起こったり、コロナ禍で自殺をする方が増えたりと、表れ方は異なるが、根っこにあるのは人生に
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