(社説)核保有国声明 廃絶の誓い 行動でこそ
核兵器を持つ5大国が互いに戦争をしないと誓ったのは前進だ。だが、また口約束に終わる疑念もぬぐえない。
米ロ英仏中が、核保有国同士の戦争回避と、核軍縮や不拡散の重要性を確認する異例の共同声明を発表した。
「核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならない」。声明が引くのは、冷戦時代に米国とソ連の首脳が合意した文言である。当時の米ソが核削減を結実させたように、問われるのは具体的な実行であろう。
核不拡散条約(NPT)は、5カ国に核保有を認める代わりに、核軍縮の誠実な交渉を義務づけている。だが近年起きているのは、新技術を投じた大国間の核軍拡であり、核を使うハードルを下げる動きすらある。
声明は、いまの核保有はあくまで防衛目的だというが、その当事国が自ら紛争の火種を生んでいる現実もある。
南シナ海などで力による現状変更を試みる中国。隣国との国境に兵力を集めて威嚇するロシア。英国も中ロへの対抗で核軍備増強に動いている。
そもそも5カ国は2000年のNPT再検討会議で、核兵器廃絶を達成する「明確な約束」をしたはずだ。だが今回の声明で、その言及はなかった。
いくら「戦争をするつもりはない」と約束したところで、軍事的な緊張が高まれば、誤認などの不測の事態は起こりうる。核兵器をなくすしか破局を封じる方策はありえない。
NPTの再検討会議は今月4日に開幕予定だったが、新型コロナで延期された。開催がいつであれ、5カ国から責任を持って言葉と行動を一致させる確約を取り付ける必要がある。
NPTの枠外で核武装したインド、パキスタンやイスラエルのほか、条約脱退を宣言した北朝鮮の例もある。冷戦時代から国際安全保障の支柱だった核不拡散体制は揺らいでいる。
その危機感を募らせた非核国が主導して生まれたのが、核兵器禁止条約だ。署名・批准の輪は広がって昨年発効した。初の締約国会議が3月にある。
ふだんは国連安保理などで対立する米英仏と中ロが珍しく声をそろえ、軍縮の意義を表明したのは、核廃絶を求める国際世論の高まりを意識せざるを得なくなったためだろう。その意味でも核禁条約はすでに効果を発揮し始めている。
だが岸田首相は、いまだに核禁条約に参画しようとしない。NPTと核禁条約は「核なき世界」をめざす両輪だ。双方の議論に加わり、補完しあう体制づくりに貢献することこそが、戦争被爆国の日本が果たすべき「橋渡し」ではないのか。