(社説)東京五輪総括 あるべき姿にほど遠い
市民・納税者への説明責任を果たし、失敗から教訓を導き、将来に生かす。そんな「あるべき総括」からかけ離れた内容と言わざるを得ない。
東京五輪・パラリンピック組織委員会が決算見通しを理事会に報告し、あわせて大会を振り返る報告書をまとめた。
総経費は1兆4530億円ほどになり、1年前の試算よりも1910億円減るという。原則として観客を入れずに開催したため、予定していたチケット収入900億円は消えたものの、かわりに会場設営や警備などの費用が抑えられた。
無観客に伴う組織委の収入不足分は、東京都が「共同実施事業負担金(安全対策)」という名目で628億円を支払って埋める。都予算の範囲内でまかない、新たな公費負担は生じないというが、単なるつじつま合わせではないか。釈然としない思いを抱く人は多いだろう。
来年6月ごろに予定される最終決算では、組織委は経費の内訳を詳しく開示し、会計検査院、国会、都議会はそれを適切にチェックして、行政監視の実を上げねばならない。
費用をめぐる不信は根深い。
誘致段階では7300億円という数字が喧伝(けんでん)された。コンパクトぶりをアピールして国内外の支持のとりつけに一役買ったが、いま組織委は「施設整備中心で運営費などは含まれていなかった。数字は独り歩きする」と、他人事のように言う。
実際、費用は膨らみ続け、一時は3兆円という数字も飛び出した。五輪にこと寄せて予算を確保しようという思惑も絡み、五輪経費か否かの線引きはあいまいで、開催側の説明不足が疑念に拍車をかけてきた。
大会の「振り返り」も、不完全のそしりを免れない。
670ページと分量こそ多いものの、国立競技場の設計や大会エンブレムに関する混乱▽都が一時検討した競技会場の変更の頓挫▽一転してのマラソン・競歩の札幌開催▽大会の延期や無観客開催が決まるまでの経緯と責任の所在▽森喜朗前会長の女性蔑視発言が露呈した組織委のガバナンス不全▽開会式をめぐる数々の不祥事の検証――など、国民が知りたいと思うこと、知らねばならないことについて、見るべき記載はない。
来春にも国際オリンピック委員会(IOC)に提出するという公式報告書も、同様にきれいごとを並べただけのものにならないか、注目したい。
大会の姿をありのままに記録し、限界がちらつく五輪の今後を考える素材を提供する。それが、世論を二分してこの祭典を強行した関係者の、世界に対する責務だと肝に銘じてほしい。