(社説)米ロ首脳会談 衝突回避へ対話重ねよ

社説

[PR]

 米欧とロシアが軍事的に緊張する時代錯誤の事態を、こじらせてはならない。冷静な意思疎通を重ねていくべきだ。

 バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領がオンラインで会談した。喫緊の主題は、ウクライナ情勢である。

 ロシアと欧州のはざまに位置するこの国は、人口4千万人超、日本の約1・6倍の国土を擁する。歴史的に大国間の勢力争いの舞台となってきた。

 今秋以降、10万人規模のロシア軍が国境近くに集結しており、年明けにも侵攻を計画しているとの米当局の情報が伝えられ、にわかに緊迫している。

 会談でバイデン氏は「強力な経済措置」での対抗を警告した。プーチン氏は、米欧などの軍事機構である北大西洋条約機構NATO)が脅威を生んでいるとし、平行線をたどった。

 近年の経緯をたどれば、ロシアが緊張を高めてきたのは明らかだ。7年前、ウクライナのクリミア半島を占領した。一方的に武力で国境線を変えようとする国際法違反の暴挙だった。

 その後もウクライナ東部で武装勢力を支援し、ロシア系住民に大量にパスポートを発行するなど、ウクライナ政府からの切り離しを進めてきた。

 昨年のロシア憲法改正では、国外に住む国民の利益を守ることを国の責務とした。「自国民の保護」を理由に介入する口実とも受け取られている。

 会談でプーチン氏は、ロシア周辺でNATOが加盟国の拡大や軍備強化をしないよう文書での確約を求めた。だが、安全保障政策は各国が自ら判断することであり、ロシアが拒否権を行使できるような話ではない。

 プーチン氏は7月、ロシアとウクライナは民族・歴史的に一体不可分だとする論文を発表した。確かに両国は長い関係をもち、ウクライナは旧ソ連の構成国でもあったが、91年からは独立した主権国家である。

 隣国をロシアの付属品のように見なす歴史観から抜けきれないために、「NATOがウクライナを奪う」といった被害者意識につながるのだろう。

 他国の主権を制限してでも自国の安全保障を優先するというのでは、まさに冷戦思考だ。現代の国際社会では到底許されず、世界を不安定化させる危うさをはらんでいる。

 一方のNATOも、双方の疑心暗鬼が核戦争の危機を招いた冷戦時代の教訓を踏まえねばならない。偶発的な衝突を防ぐ仕組みを整えつつ、対話を絶やさぬ地道な努力が必要だ。

 ウクライナ現地の住民は、長らく不安のなかにある。大国のエゴで市民の暮らしが脅かされる事態を続けてはならない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません