(社説)補選1勝1敗 首相、前哨戦で痛手

社説

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 1週間後に控える衆院選の前哨戦として、総力を挙げた結果の敗北である。滑り出したばかりの新政権が、なぜ支持を広げられなかったのか、岸田首相は重く受け止める必要がある。

 岸田政権初の国政選挙となった二つの参院補欠選挙のうち、保守地盤が強く、野党の足並みもそろわなかった山口選挙区は、参院比例区から転じた自民前職が圧勝した。一方、静岡選挙区は接戦の末、自民新顔が立憲民主、国民民主両党が推薦した無所属新顔に敗れた。

 いずれも自民党議員の辞職に伴うもので、党内には当初、2勝は当然との楽観的な見通しがあった。静岡にしても、衆院の8小選挙区のうち七つを自民と自民系前職が占めており、共産党が独自候補を立てるなど、野党共闘も限定的だった。

 それでも敗れたのは、6月の知事選で自民推薦候補を大差で破り、4選を果たしたばかりの川勝平太知事が、野党系候補を全面支援した影響が大きいことは間違いない。リニア中央新幹線の建設など、地域固有の争点もあった。しかし、それだけではあるまい。

 朝日新聞社の出口調査では、無党派層の投票先は当選した野党系が69%で、自民は20%。岸田内閣の不支持層では74%が、新型コロナへの政府対応を「評価しない」層では68%が、当選した野党系に投票した。無党派層の多くや政権への批判票が野党に向かったのは明らかだ。

 首相は、政治手法でも、政策面でも、安倍・菅政治の反省と総括のないまま、その座についた。森友・加計・桜を見る会など、長期政権のウミというべき「負の遺産」の清算には後ろ向きで、分配重視の経済政策も、金融所得課税の強化を早々に先送りするなど、これまでとの違いがはっきりしなくなっている。スローガン先行で政策の具体像もなかなか見えてこない。

 自らの姿勢が、政権への期待や信頼をそいではいないか。2度にわたって静岡入りし、支持を訴えながら、かなわなかった事実に謙虚に向き合うべきだ。

 野党側は静岡での勝利が衆院選への弾みになると歓迎する。ただ、現職知事の支援に助けられた面は大きく、共産党を含めた野党共闘への支持がどこまで広がるかは、予断を許さない。

 今回の補選の投票率は山口が36・54%、与野党の接戦となった静岡でも45・57%にとどまった。補選の投票率は概して低くなる傾向にあるとはいえ、有権者の半分から3分の2近くが棄権するとは、代議制民主主義の基盤を掘り崩す深刻な事態だ。与野党には、衆院選の投票日に向け、有権者の関心を喚起する一層の努力が求められる。

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