(社説)東電の不祥事 見えぬ経営陣の危機感

社説

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 東京電力の再生への意志を、疑わざるをえない。

 柏崎刈羽原発でテロ対策不備が続いた問題で、東電は原因や再発防止策をまとめた報告書を原子力規制委員会に提出した。明らかになったのは、現場からの問題指摘を放置するなど安全軽視の姿勢だ。福島第一原発事故の教訓が生かされていない。

 柏崎刈羽では、社員のIDカード不正使用、侵入検知設備の故障など核セキュリティー問題が発覚し、規制委は4月、審査を終えていた7号機の再稼働を事実上禁止する命令を出した。

 報告書は、現場のリスク認識や上層部の現場実態の把握、組織として是正する力などの弱さを原因にあげた。職場内や組織間の意思疎通、上意下達・統制志向で言い出しにくい風通しの悪さ、「警備部門への尊重」の弱さといった点の改善が必要と分析。組織の見直しや安全文化浸透などの対策を示した。

 安全よりコスト削減を優先する姿勢も垣間見える。リース契約だった侵入検知器は買い取りを進め、経費が節減された。古くなって故障が増え、しかも故障が数件発生してからまとめて復旧させるようになっていた。

 核セキュリティーは、核物質をテロから守る重要な対策で、おろそかにすることは許されない。不備があれば日本に対する国際社会の信頼も損なわれる。

 経営陣は、どれほど深刻に事態を受け止めているのか。

 外部検証委員会が行った社内アンケートでは、経営陣への厳しい記載が相次いだ。「経営層・管理層が核セキュリティーを理解していると思っていない」「経営層に安全優先を考えて相談しに行っても、費用の高さ、仕事の遅さを怒られ、相談にも乗ってもらえない」「管理層の経営層に対する忖度(そんたく)を強く感じる」などの指摘だ。

 報告書提出後、小林喜光会長と小早川智明社長らが記者会見に臨んだ。「最後の機会と覚悟を持って取り組む」と語ったが、「だめだったら撤収するのか」など再三の厳しい質問には正面から答えなかった。

 報告書を受けて規制委は内容の確認や追加検査を進める。更田豊志委員長は先月29日の定例記者会見で、核セキュリティーについての経営層の意識の低さや関与の少なさに懸念を示した。東電の組織としての安全文化や経営体質を含めて慎重に検証してほしい。

 柏崎刈羽では7号機の安全対策工事の不備も次々に判明している。朝日新聞は社説で、東電に原発を運転する資格はないと指摘してきた。東電の経営陣は安全文化徹底はもちろん、自らの言動の現場への影響を自覚して意識改革することが必要だ。

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