(社説)コロナ第5波 命を救う準備を急げ

社説

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 新型コロナ「第5波」の到来が明らかだ。より感染力の強い変異株への置き換わりが進んでおり、感染者急増への備えを全国で急がねばならない。

 政府分科会の尾身茂会長は16日の談話で、この2カ月を「コロナとの闘いの山場」と位置づけ、県境を越えた移動などを控えるよう呼びかけた。だが夏休み期間に入り、五輪の開幕も迫るなか、人出を抑えるのはますます難しくなっている。

 加えて、ワクチンの供給や酒類の提供停止をめぐる政府の失態が相次ぎ、コロナ対策全般への信頼は大きく揺らいでいる。

 本来であれば、菅首相が不手際を率直に謝罪し、正確で強いメッセージを発して状況を立て直すべき局面だ。ところが首相は17日のテレビ番組で、「1回目の接種が国民全体の約4割になると、感染者が減り始めると言われている」などと述べ、今月末から感染者が減少するかのような見方を示した。

 あまりの楽観にただ驚く。英国では成人の3分の2が2回の接種を終えたが、最近の行動制限の緩和に伴い、感染者が急増している。この現実をどう見ているのだろう。

 重症者が増えなければさほど心配はいらないとの声もよく耳にする。確かにワクチン接種の効果で、高齢層では感染者、重症者ともに減少した。しかしその下の年代では重症者が増え、東京都が確保したベッドの約半分はすでに埋まっている。全体の病床使用率も6月下旬から上昇に転じ、入院先を調整する保健所の態勢に余裕がなくなってきているとの報告もある。

 春先の第4波では、関西圏を中心に、病院に入ることができず自宅や宿泊療養先で亡くなる人が相次いだ。年明けの第3波のとき、東京で同様の悲劇が起きたにもかかわらず、教訓は十分に生かされなかった。

 患者を受け入れるには、医療スタッフの配置や勤務を見直さなければならない。用意している病床が直ちに使えるとは限らないことは経験済みだ。自宅などで療養する感染者のフォロー態勢も含め、前倒しで準備を進めてもらいたい。

 病院間の連携や役割分担が進み、以前よりもスムーズになっているとはいえ、病院同士や自治体間の調整に任せるやり方には限界がある。十分な病床確保のためにどんな制度や支援策が考えられるか、国会で議論を深めておくべきだったのに、政権は早々に閉会してしまった。

 五輪の選手や関係者が続々と来日している。国籍を問わず、感染者が必要な手当てや治療を受けられない事態は回避しなければならない。開催を強行する国が負う当然の責務だ。

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