(社説)コロナワクチン 全体見すえ体制構築を

社説

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 米製薬大手ファイザー社が、日本では初めてとなる新型コロナウイルスワクチンの製造・販売の承認を申請し、厚生労働省で審査が始まった。

 海外の臨床試験では発症を9割以上抑える効果が報告されている。英国で変異したウイルスが見つかったが、英政府は今のところワクチンの有効性に影響はないとの見方を示している。

 国内でも小規模な臨床試験は行われたものの、今回は外国のデータをもとにした特例承認の制度が適用されるようだ。人種や地域で効能が異なる可能性があり、ある程度不確実さを伴うものにならざるを得ない。

 ワクチンへの期待は大きいが、審査にあたっては政治的な思惑などは一切排し、あくまでも科学的知見に基づいて結論を出さなければならない。

 ファイザー社製を含め、早期の申請が見込まれるワクチンはいずれも、遺伝情報の一部を使う新しい技術によるものだ。

 先の臨時国会で成立した改正予防接種法は、コロナワクチンの接種を他の定期接種と同じく、国民の「努力義務」と位置づけた。強制はされないが費用は国が全額負担する。有効性や安全性に責任を持つ国が、承認からその後の接種、検証まで、主体となって取り組むべきは改めて言うまでもない。

 政府は来年前半までに国民全員分のワクチンを確保したいとしている。これほど多くの人が一斉に新しいワクチンを接種する経験は過去にない。必要な施設や医療従事者の確保、品質管理に欠かせない設備や流通・輸送体制の整備など、着実に準備を進める必要がある。

 また、接種は医療従事者や高齢者、持病のある人から優先して始める方針だ。供給量が限られる段階で、必要性の高い人から機会を確保する考えは理解できる。ただその線引きは容易ではない。人々が納得できる透明性のある議論が求められる。

 厚労省は接種を受けられる医療機関などが一覧できるサイトを準備中だという。あわせて、ワクチンに関する最新のデータや国内の開発状況などの情報発信にも力を入れてほしい。ネットを使える環境にない人や、不慣れな高齢者らへの目配りも忘れてもらっては困る。

 予防接種法の改正にあたって国会は付帯決議をあげ、接種後の副反応を疑う事象について広く相談窓口を設置し、周知することなどを政府に要請した。

 ワクチンと健康被害の因果関係を解明するのは簡単ではない。接種後に報告された健康被害や有害事象を丹念に収集し、データベース化して評価していく作業が必須となる。その準備にも直ちに取りかかるべきだ。

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