(社説)学術会議問題 改組ありきのまやかし

社説

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 政権のさらなる逸脱・横暴を認めるわけにはいかない。

 日本学術会議のあり方について、井上信治科学技術担当相が「年内には一定の道筋を示したい」と述べた。「道筋」が何をさすのかは不明だが、会員の任命拒否問題をうやむやにしたまま、日本を代表する学術機関の改組に突き進む姿は異様というほかない。事実に基づき、理性的な対話を通じて合意を形成する民主政治の否定でもある。

 そもそも学術会議の設置形態を、いま急いで見直す理由はどこにあるのか、政府から納得のゆく説明は一切ない。とにかく改革案を示せと迫られた学術会議が、16日に公表した中間報告で「法改正を要請する立法事実の明確化が求められる」と主張したのは当然である。

 異論を抱きつつも学術会議は作業を進め、日本の学術発展の歴史や他国の状況も踏まえて、「国家財政支出による安定した財政基盤」「活動面での政府からの独立」など満たすべき五つの要件を列挙。現行の形態はこれに合致すること、他についても検討しているが、なお精査する必要があることなどを報告した。もっともな内容だ。

 設置形態と日本学術会議法が定める「職務の独立」とは密接な関連がある。まずは同会議の議論の結果を待つべきだ。

 政府の有識者会議は5年前、「日本学術会議の今後の展望について」と題する報告書に「現在の制度を変える積極的な理由は見いだしにくい」と書いた。また、来年度の政府予算案には従来通りの経費が計上される見込みだ。「道筋」を年内につけねばならない事情はない。

 ましてや先日の自民党プロジェクトチーム(PT)の提言に沿い、学術会議の「独立」に踏み出すなどもってのほかだ。重要なのは活動に対する政府の介入からの独立である。独立に名を借り、同会議から公的資格を奪い、財政を不安定にして弱体化させるようなことをすれば、国際社会の笑いものになる。

 真に学術会議のあり方を議論したいのなら、まず首相が任命拒否を撤回し、腹蔵なく話し合える環境を整えるべきだ。

 その首相は自民党PTの座長に「学術会議の中身について国民もだんだんわかってきたんじゃないか」と述べたという。

 たしかに国民は、学術会議が多様な提言をしてきたこと、国の予算が貧弱で多くの会員は手弁当で活動していること、自民党議員らの同会議批判には虚偽や歪曲(わいきょく)があったことを知った。一方で、任命拒否の理由や公安警察出身の杉田和博官房副長官が果たした役割など、主権者として知りたいこと知るべきことは、まだ何もわかっていない。

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