香港民主派、奪われる自由 黎氏勾留 国安法、捜査続く=訂正・おわびあり

 香港の民主活動家らの自由が次々と奪われている。3日は民主派の重鎮で「リンゴ日報」の創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏も勾留された。司法当局による動きの背景には、統制を強める中国共産党指導部の意向があるとみられる。中国側は「香港は安定した」と成果を誇るが、欧米や日本との溝は深まっている。▼3面参照

 「逃亡犯条例」改正案をめぐるデモに絡み、民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏と周庭(アグネス・チョウ)氏に実刑判決が下された2日、黎氏も警察で聴取を受けていた。

 警察署に入る前、黎氏は記者団にこのまま勾留される恐れを聞かれ、「そのようなことは考えないようにする」と答えていた。だが、香港国家安全維持法(国安法)で警察に新設された国家安全の法執行部隊が国安法とは別件の詐欺罪で起訴に踏み切った。

 黎氏は当局が国安法で狙いを定めた「本丸」だったとみられている。黎氏は1989年の天安門事件後、共産党指導部を厳しく批判。中国本土で成功していたアパレルブランドが圧力を受けると、事業を売却してリンゴ日報を創刊した。政治的圧力を恐れて企業が広告を渋るなか、購読料に立脚した独立路線で香港と中国の民主化を目指した。

 その存在は国際的にも知られ、香港の混乱が広がった昨年、訪米してペンス副大統領と会談し支持を求めるなどした。

 黎氏の勾留は来年4月16日の次回審理まで続く見通しだが、当局は「(8月に逮捕された)国安法違反事件の捜査も進行中」としており、勾留はさらに長引く可能性がある。

 ■逮捕や海外脱出、次々

 「亡命し、香港民主党から身を引くことにした。この痛みを言葉にするのは難しい」。香港立法会の元議員、許智峯氏は3日、滞在先のデンマークからこう宣言した。公務で出国した後、黄氏や周氏、黎氏らが収監・勾留され、知人らから「香港に絶対に戻るな」と連絡を受けたという。許氏は7月に公務執行妨害容疑で逮捕・保釈されていた。

 国安法の施行後、民主派の活動家らが次々と香港政治の表舞台から遠ざけられている。2014年の民主化デモ「雨傘運動」を率いた黄氏、日本などに支援を呼びかけてきた周氏ら、運動を支えてきたリーダーらの自由を奪い、民主派の力を弱める狙いが当局側にあるのは明らかだ。

 英国に逃れた羅冠聡(ネイサン・ロー)氏をはじめ、活動家らの香港脱出の動きも相次ぐ。8月、台湾への密航を試みた12人が中国当局に拘束され、10月には香港の米国総領事館に亡命申請しようとした3人も逮捕された。

 国際社会の懸念も深まっている。黄氏らへの判決を受け、英国のラーブ外相は2日、「反体制派を抑圧するキャンペーンに終止符を打つよう求める」と批判。加藤勝信官房長官も3日の会見で「重大な懸念を強めている」と述べた。(広州=奥寺淳、ロンドン=下司佳代子)

 ■香港の表舞台を離れる民主派メンバーら

 ・黎智英氏……国安法で逮捕、詐欺罪で勾留

 ・黄之鋒氏……デモ扇動などの罪で禁錮1年1カ月半

 ・周庭氏……デモ扇動などの罪で禁錮10カ月

 ・羅冠聡氏……英国に移住

 ・活動家ら12人……台湾への密航を試みるが、南シナ海で中国当局に拘束

 ・活動家ら3人……香港の米総領事館に亡命求め失敗。国安法で逮捕

 ・立法会議員……国安法に反対したなどとして4人が資格剥奪(はくだつ)。ほかの15人も抗議の一斉辞職

 <訂正して、おわびします>

 ▼4日付国際面「香港民主派 奪われる自由」の記事で、香港立法会の元議員、許智峯氏が7月に逮捕された際の容疑が「国安法違反」とあるのは、「公務執行妨害」の誤りでした。ほかの議員の容疑と取り違えました…

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