(社説)遺言の活用 思いを確実に残すため

社説

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 自分にもしものことがあった時、財産をめぐって争いが起きるような事態は避けたい。そのためには遺言の形で意思を明確に示しておく必要がある。

 2年前の相続制度の改正で、遺言書の財産目録は手書きでなくてもよくなった。今年7月には、自筆の遺言書を法務局が1通3900円の手数料で保管する制度も始まった。2カ月間で約5千件の利用があった。

 遺言の主流は公証人が関わる「公正証書遺言」だ。専門家が点検するので、後で法的不備が指摘されることはまずない。

 民法は「自筆証書遺言」も認めている。手軽さが利点だが、必要な事項が書かれていないなどの理由で無効とされる恐れがあるほか、なくなったり改ざんされたりする可能性もある。実際、真正なものかどうかで争いになることも珍しくない。

 法務局が保管すれば紛失や変造の心配はなくなる。また通常の自筆証書だと、家裁で相続人らが開封・検認する手続きが必要だが、これも不要だ。

 一方で課題もある。遺言書が保管されているかどうか、相続人から照会があればいいが、ない場合は、遺言の存在が知られないまま相続の話し合いが進んでしまうことになる。それでは本人の意思は宙に浮いた形になり、せっかく新たな仕組みを導入した意味がない。

 法務省は、法務局で戸籍を担当する部署が本人の死亡を確認したら、あらかじめ本人が指定した人物に対し、遺言書の保管を通知する制度を、来年度中に導入することを考えている。本来ならばもっと早くから準備を進め、7月に同時に施行していておかしくない話だ。検討を急いでもらいたい。

 当事者の間で遺産分割の話し合いがつかず、家裁に調停が申し立てられた件数は18年に約1万3千件。10年前に比べて2割増えた。相続争いは資産家の話と思われがちだが、遺産分割の実態をみると、残された財産は1千万円以下というケースが3割以上を占める。

 年齢も関係ない。専門家が勧めるのは、未成年の子がいる若い親世代の遺言書づくりだ。

 たとえば夫が急に亡くなった後の遺産分割協議で、法定相続人の妻は同じく相続人である子の代理人になれない。利益が相反する可能性があるためで、家裁に特別代理人の選任を請求する必要がある。妻にすべてを相続させて問題がない場合は、その旨の遺言書を残していれば、そうした面倒は起こらない。

 年初、誕生日、敬老の日などを機に、遺言書を作成・更新する機運は年々高まり、サポートする動きも広がっている。上手に使ってこそ、制度は生きる。

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