(社説)マイナポイント 国民の理解がなくては

社説

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 なぜマイナンバーカードを持つ必要があるのか。これをきちんと説明しないまま、巨額の税金を使って国民にカードの取得を迫るのは無理がある。政府が今月始めた「マイナポイント」のことだ。

 この事業では、マイナンバーカードを持っている人が来年3月末までに、事前に登録した電子マネースマホ決済などで買い物やチャージをすると、利用額の25%、最大5千円分のポイントが付与される。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、人と人との接触は減らさざるをえない。マイナンバーカードを使って行政手続きのオンライン化を進めようとすることは理解できる。

 しかしこの事業には、キャッシュレス決済の普及や消費喚起などの狙いもある。それぞれの目的に対してどれほどの効果が期待できるのか。約2千億円もの税金を使う必要があるのか。政府は明らかにしなければならない。

 16年に始まったマイナンバーカードの交付枚数は、9月16日時点で2544万枚。取得率は20%にとどまる。政府は今年度末の交付枚数を6千万~7千万枚と見込んでおり、ポイント事業の効果に期待する。しかし事業への申し込みは9月17日までに641万人と、政府の利用想定の2割以下。期待はずれに終わりかねない。

 枚数が増えないのは、手間をかけてまで取得するメリットがないと、国民が考えているからだろう。カードの紛失や、個人情報の漏洩(ろうえい)などへの不安が根強いことも一因だ。やみくもに普及を図っても、カード取得を促す効果は限られることを、認識する必要がある。

 政府はマイナンバーカード機能のスマートフォンへの搭載や、運転免許証との一体化などの利便性の向上策を検討し、年内に工程表をまとめるという。菅義偉首相は、推進役としてデジタル庁を新設する意向だ。

 検討の際は、便利さを追求するあまりに個人情報の扱いをおろそかにしてはならない。慎重に制度を設計し、国民の理解を十分に得る努力が求められる。

 政府は本来、必要性を具体的に説き、国民がおのずとカードを取得しようと考える仕組みづくりを目指すべきだ。ポイント事業に頼って普及を促すのでは、安易に過ぎる。

 新型コロナ対策の一律10万円の給付では、マイナンバーカードによる電子申請をめぐって自治体の現場が混乱した。想定外の利用方法だったからだ。

 どう使うかを詰めずに巨費を投じてシステムを整えても、無駄遣いに終わる。同じ失敗を繰り返してはならない。

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