(社説)コロナと差別 社会の荒廃を防ぐため

社説

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 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。国内で確認された人は1万人を超えた。世の中を閉塞(へいそく)感が覆い、ふだんは見えにくい社会の矛盾や病理がさまざまな場面で噴き出す。

 そのひとつが、感染者に対する差別的な言動だ。

 研修医や警察幹部が、危機感が高まっていた3月下旬に懇親会を開いて多くの感染者を出したことなど、状況に鑑みて反省が強く求められる例もある。

 しかしそうしたケースを越えて、感染したことを本人の落ち度や責任感の欠如の表れであるかのようにとらえ、不当な扱いをするのはおかしい。

 密閉・密集・密接を避け、手洗いを心がけていても感染してしまうことは起こり得る。また無症状でも感染している場合があることが、ウイルスの特徴として知られるようになった。自分と感染者との間に線を引き、相手を異物として排除するような風潮は間違っている。

 感染したら非難や攻撃を受ける状況が続けば、医者に診てもらうのをためらったり、行動履歴を隠したりする方向に流れ、さらに感染を広げるおそれがある。感染者が立ち寄ったことを自主的に公表したところ、風評被害を受けた施設もある。拡大の阻止に逆行する話だ。

 感染者と接することが仕事の医療従事者が、心ない仕打ちを受けたという声も数多く聞く。2月に早くも関係学会が抗議声明を出したが、医療に携わる人々でつくる労働組合も、人手や資材の不足とあわせて差別の深刻さを訴えた。被害は子どもや家族にまで及ぶという。

 院内感染の報道などに接し、身構える人がいるのも分からなくはない。だが厳しい環境下で奮闘する医療従事者を、このような形でさらに追い詰めれば、医療崩壊を助長するだけだ。欧州で始まった運動のように、今は拍手を送って感謝と支援の思いを伝えるときだ。配送業など社会に欠かせない仕事をしながら同様の苦境にある人にも、温かいまなざしを送りたい。

 政府も、誤解や偏見に基づく差別をしないよう訴えるスポットCMを流すなど、対策に乗りだした。首相や各知事から改めて強いメッセージを発して、社会に呼びかけてほしい。

 歴史をふり返れば、感染症は差別や嫌がらせと分かちがたく結びついてきた。ハンセン病患者の隔離が、大きな禍根を残したことは記憶に新しい。

 長丁場になるウイルスとの闘いで、命やくらしを守るには、社会の風通しをよくすることが欠かせない。二次的に起きる差別や社会の荒廃は、一人ひとりの心の持ち方によって食い止めることができる。

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