(社説)ウイグル問題 民族弾圧は許されない

社説

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 恐ろしい「想定問答集」である。里帰りした学生が、自らの家族が拘束されたことを知る。その際、地元当局者はこう対応するよう指示されている。

 (学生)わたしの家族は罪を犯したのですか?

 (当局者)彼らはよくない思想に感染しました。思想上のウイルスを取り除けば、すぐに自由になれますよ――。

 中国の新疆ウイグル自治区のイスラム系住民に対する弾圧は今も、ベールに包まれている。だが最近、注目すべき報道が相次いで世界を驚かせている。

 米ニューヨーク・タイムズが入手した中国当局の内部文書には、冒頭の問答集を含む様々な当局の内実が記されていた。

 世界の報道機関や記者でつくる「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)は、新疆に強力な監視網が張り巡らされたことを示す文書を報じた。1週間で2万人以上が、テロ関連で「疑わしい人物」として特定されたという。

 別の内部文書によれば、習近平(シーチンピン)国家主席は「イスラム過激分子」を「容赦なく」取り締まれと指示したとされる。人権団体の報告では、「テロ対策」の名目で100万人規模の人々が収容されたとの情報もある。

 確認はむずかしいが、重大な弾圧が起きているのは確かだろう。中国当局は「テロ」「過激思想」などの言葉を用いているものの、実態はウイグル族などの特定の文化と宗教の住民に対する民族的迫害と呼ぶべきだ。断じて容認できない人権侵害である。

 中国政府は現地での記者の取材を制限している以上、説明責任は自らにある。情報を自ら積極的に公開し、国際社会の指摘に真正面から答えるべきだ。

 中国政府は「過去3年間、新疆でテロは封じられている」として政策の正当性を訴えるが、説得力はない。民族としてのアイデンティティーや内心の自由は人間の尊厳にかかわる問題であり、公権力が踏み込むべき領域ではない。

 そもそも強引にテロを封じ込める手法には限界がある。弾圧は憎しみを増幅し、世代を超えて大きな暴力に向かう。中国政府は強権ではなく、融和策によって各民族が共存できる社会を実現させるべきだ。

 国外在住のウイグル族も恐怖を抱える。日本に住む30代の女性は「新疆にいるすべての親族の電話がつながらなくなった。生きているのかも分からない」と東京での集会で語った。

 日本を含む国際社会は、現実から目をそらしてはなるまい。新疆を覆う闇の実態を明らかにし、膨大な数の人々を救う国際的な取り組みを急ぐべきだ。

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