(社説)米の中東政策 入植容認は和平妨げる

社説

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 中東の和平を遠のかせる愚挙を、また一つ重ねた。トランプ政権によるパレスチナへの圧迫は、米国外交の信頼失墜をさらに深めることになろう。

 問題は、イスラエルパレスチナ自治区で一方的に広げている入植活動である。ポンペオ米国務長官が記者会見で「国際法に違反しない」と述べ、事実上容認する考えを示した。

 軍事的に占領した土地に自国民を移住させることは、国際条約が禁じている。国連安保理も入植を国際法違反であると幾度も指摘してきた。米政府の新見解は、国際的な法治のルールを無視した暴論である。

 70年に及ぶ中東紛争を解決するには、パレスチナも国家を造ってイスラエルと共存する「2国家解決」しか道はない。

 ところがイスラエルは入植地を拡大し、ヨルダン川西岸地区ではパレスチナ人270万人に対し、40万人のユダヤ人が点在して暮らしている。ネタニヤフ首相は9月に、西岸の一部併合すら打ち出した。

 占領を永続化させる試みは、ただちにやめるべきだ。パレスチナ人の憎悪を深め、イスラエルとアラブ地域との関係も悪化させる。長期的にはイスラエルの安全保障を脅かすだろう。

 イスラエルを支える米国も1978年に入植は「国際法と相いれない」と表明した。以来、入植地の存在が和平への障害だとの姿勢を維持してきた。

 その方針を軽々に転換したトランプ政権は、異様なほどイスラエルに肩入れしてきた。

 紛争地であるエルサレムをイスラエルの主張通り「首都」と認め米大使館を移した。イスラエルがシリアから奪ったゴラン高原での主権も認めた。

 一方で、パレスチナに対しては恫喝(どうかつ)ともとれる仕打ちを繰り返す。ワシントンにあるパレスチナ代表部を閉鎖し、パレスチナ難民の教育や保健を担う機関への拠出金も止めた。

 トランプ大統領は新たな中東和平構想を出すといって久しいが、もはや仲介者の資格を自ら放棄したに等しい。

 トランプ政権については、外交が大統領の支持固めに利用されているとの指摘が根強い。強固な基盤であるキリスト教福音派は、イスラエルの入植を支持している。大統領選が来年に迫るなか、トランプ政権のさらなる不穏な動きが懸念される。

 米国の過ちを国際社会は座視してはなるまい。

 日本はパレスチナの経済自立へ向けた支援を地道に続けている。欧州などと連携して米国とイスラエルに再考を促し、「2国家共存」の道が完全に閉ざされないよう、粘り強く国際世論をリードすべきだ。

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