(社説)園児死傷事故 歩行者の安全強化急げ

社説

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 事故から1週間余り。現場の献花台にあふれた花や菓子、ぬいぐるみが、人々に与えた悲しみと衝撃の大きさを物語る。

 大津市で散歩中の保育園児の列に車が突っ込み、園児ら16人が死傷した事故は、自動車がとりわけ歩行者への凶器となる危うさを改めて示した。

 運転者が責任を自覚して安全に努めることはもちろん、事故防止の方策は多岐にわたる。そのなかでも、道路・歩道を点検し、危険な場所にガードレールや緩衝具、標識を補ったり、横断歩道や信号の設置を見直したりして、歩行者の安全を強化する取り組みを急ぎたい。

 大津市のこの保育園には園庭がなく、ふだんから保育士が引率して琵琶湖畔へ散歩に出かけていた。園の近くに横断歩道はなく、湖畔に出るには数百メートル離れた交通量の多いT字の県道交差点を渡る必要がある。その交差点で右折しようとした乗用車と対向車線を直進してきた軽乗用車が衝突し、軽乗用車が歩道にのりあげ、信号待ちをしていた園児らをはねた。

 車道と歩道の間には、一部に縁石があるだけだった。滋賀県は事故後、円筒形の緩衝具を置いたが、周辺の横断歩道も含めて対策が十分かどうか、警察とともに検証することが必要だ。

 子どもが巻き込まれた事故をめぐっては、12年に京都府亀岡市集団登校中の小学生らが死傷した事故などを受けて、全国約2万の公立小学校などの通学路の緊急点検が行われた。文部科学省によると、7万4千超の危険箇所が確認され、その大半で路肩の拡幅やガードレール設置、信号機や横断歩道の新設などの対策を実施済みという。

 しかし、幼稚園や保育園の通園や散歩のルートは対象外だった。国は今回、施設外活動の経路の安全確認を徹底するよう自治体に求めたが、支援を怠ってはならない。危険箇所を把握するには、地域住民の声を広く集めるのが有効だろう。通学路の状況も宅地開発や大型店の開店などで変化していると見られ、あわせて調べたい。

 子どもが身近な自然や地域の人々の生活に触れるのは重要だ――。国はそうも指摘した上で、安全に配慮しつつ、引き続き散歩などの園外活動に積極的に取り組むよう呼びかけた。

 都市部を中心に園庭のない施設が増え、散歩を含む園外での活動は欠かせない。事故を恐れて園内にとどまるばかりでは、健やかな成長は望めない。

 子どもが安心して歩ける環境の整備は、高齢者や障害者をはじめ、だれもが安全に移動できる街づくりにつながる。発想や文化を歩行者優先へと転換していくことが問われている。

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