東電旧経営陣の責任、高裁は認めず 原発事故「13兆円賠償」ゼロに

黒田早織
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 2011年に起きた東京電力福島第一原発事故をめぐり、東電の株主42人が旧経営陣5人に対し、「津波対策を怠って会社に損害を与えた」として23兆円の賠償を求めた株主代表訴訟控訴審判決が6日、東京高裁であった。木納敏和裁判長は、旧経営陣に13兆3210億円の賠償を命じた一審判決を取り消し、株主側の請求を棄却する判決を言い渡した。株主側は上告する方針。

 旧経営陣は、勝俣恒久元会長(24年に死去)、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務。死去した勝俣氏の訴訟は相続人の遺族が承継した。

 一審は小森氏を除く4人の賠償責任を認めていた。原発事故の刑事責任が問われた別の裁判でも今年3月に旧経営陣2人の無罪が確定していて、民事裁判でも旧経営陣の責任が否定された。

 訴訟の主な争点は、旧経営陣が巨大津波の発生を予見できたか(予見可能性)と、津波対策を指示していれば事故を回避できたか(結果回避可能性)の2点だった。

 高裁判決は、原発事故は被害が甚大になることから、いつ起きるかわからない巨大津波の対策として求められるのは「原発の運転停止だった」と指摘。運転停止で国民生活や経済活動に影響する点を踏まえると、旧経営陣の予見可能性を認めるには、運転停止を正当化できる信頼度のある根拠が必要だとした。

 次に、国が02年に公表した地震予測「長期評価」について検討。長期評価では、福島県沖でも大津波を伴う巨大地震が起きる可能性が示されていた一方、国自身が長期評価の信頼性をやや低く捉えていた点などから運転停止の根拠には「不十分だった」とした。

 長期評価に関する旧経営陣の認識についても言及した。

 長期評価に関する報告をもっとも多く受けたのは武藤氏で、その内容は「短期間に巨大津波が来るとの切迫感や現実感を抱かせるものではなかった」と認定。こうした事情を考慮すると、武藤氏は巨大津波を予見できたとは言えず、武藤氏より情報が少なかったほかの旧経営陣についても予見可能性を認めなかった。

 その上で高裁は、津波を予見できなかった旧経営陣には、事故を回避する対策をとる義務もなかったと指摘。旧経営陣の賠償責任はないと結論づけた。

 判決を受けて東電は「個別の訴訟に関することは回答を差し控える」とコメントした。

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この記事を書いた人
黒田早織
東京社会部|裁判担当
専門・関心分野
司法、在日外国人、ジェンダー、精神医療・ケア