フジ問題、私たちが投げる石は「他山の石」か 日本社会に欠けた視点
■論壇時評 政治学者・谷口将紀
テレビのワイドショーにおける芸能や事件のように、朝日新聞批判、中国・韓国批判、そして歴史認識問題は、保守系月刊誌にとって定番のテーマであった。ところが、最近その様子に変化が見られる。「WiLL」は2号連続で日本保守党を激しく批判し、「Hanada」は「保守とは何か」を問う特集を組んだ。後者では、リベラルは小異を乗り越えて団結するのに対し、保守は些細(ささい)な意見の違いで争うという論評が散見された。長年論陣を張ってきた小川榮太郎は、リベラル勢力の退潮によって保守派が共通の「敵」を見失っているという(❶)。
一方で、筆者がこれまでリベラル派から耳にしてきたのは、むしろ(便宜上、左派とリベラル、右派と保守を同義として)「右派は異見を包容するのに対し、左派はすぐに分裂する」という嘆きであった。批評家東浩紀のいう「私たちが生きているのは、一つの方向からの見方だけでは説明がつかない時代」(❷)という認識のもと、本欄では気鋭の論壇委員の協力を得ながら、「両論熟議」に向け幅広い論考を取り上げていきたい。
経済摩擦時代に逆戻り?
「トランプ2.0」が世界を揺るがしている。特に4月2日に発表された各国への相互関税は大きな衝撃を与えた。多くの論考はこの発表以前に執筆されたとみられるが、元米国務省チーフエコノミストのチャド・P・ボウンらは、関税が対米投資を呼び込んだとしても、資本の流入はドルを保有する外国人による米国製品やサービスの購入ではなく、米国資産の取得を促すことになり、貿易赤字は拡大すると批判している(❸)。
雑誌やネット上の論考から時事問題や思潮を探る、月1回の連載「論壇時評」。4月から、東京大大学院教授の谷口将紀さん(現代日本政治論)が執筆を担当します。話題はトランプ関税の衝撃からアメリカの激変する食文化、そしてフジテレビ問題にまで広がります。
それでもなお米国が「アメリ…
- 【解説】
同僚の谷口さんが論壇時評を担うことになり、宇野さんのチームとは異なる味わいの論評が展開されるのを楽しみにしている。細かいことだが、ダイエットコークがMAGA御用達になったのは、やはりそれがトランプの好みだからだろう。コーラゼロでもなく、ダイ
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