知床・観光船沈没から3年 船の甘い検査体制、基準強化も人手不足
北海道・知床半島沖で2022年4月に観光船が沈没し、乗員・乗客26人全員が死亡・行方不明となった事故では、国が所管する検査機関によるチェック体制の甘さも浮き彫りとなった。国に代わって、小型船舶の検査を担う特別民間法人「日本小型船舶検査機構(JCI)」は検査基準を強化する一方で、現場の業務量が増え、手薄な状態が続く。
3年前の23日に沈没した小型観光船「KAZUⅠ(カズワン)」は事故の3日前にJCIによる検査を受けたが、事故の要因とされた「ハッチ」の不具合は見逃された。
事故で死亡した甲板員の両親が23年、「おろそかな検査によって息子が死亡した」などとして、国とJCIを提訴。今年2月、JCI側が東京地裁に提出した陳述書には、「外観検査で問題がないと判断したため、(ハッチの)開閉試験は省略しました」と記載されていた。
検査員の陳述書によると、検査は約45分間。ハッチのある甲板には5分程度滞在し、足元にハッチが見える位置まで行き、「腰をかがめて確認した記憶がある」という。腐食による変色や変形は無く、ふたとの間に隙間も見られなかったことから、開け閉めの検査は省略した。
事故原因を調査した国の運輸安全委員会の報告書によると、本来、ハッチには水が入らないよう、ふたがされているが、留め具に不具合があり、閉鎖できない状態だった。
沖縄でも見逃し、ダイビング船転覆
23年8月には沖縄県宮古島市で、知床事故の1年前に定期検査を受けたダイビング船が転覆し、客やインストラクター計20人が全員救助された。水の流入を防ぐための船尾の仕切り板が取り外されていたが、検査で見逃されていた。
検査の不備が相次ぎ、JCIは船を海に浮かべたままの検査を、5トン以上の船では、陸揚げして船底を確認する「上架検査」を義務化。ハッチの開閉試験も、事故前は「外観検査により現状が良好」の場合は省略できたが、状態にかかわらず試験を義務づけた。
また、昨年3月からは旅客船の法令や構造に詳しく、高い技術力をもつ検査員を「旅客船検査員」に認定。原則として全ての旅客船の検査を行い、今年4月時点で23人が認定され、JCIは25年度中に30人以上に増やす方針だ。4月からは「旅客船検査課」を新設し、各地の支部が行う検査の日程調整や進捗(しんちょく)状況を管理する。
年間10万隻検査、業務量3割増
検査を強化したことで、新たな課題も生じた。JCIの検査対象は年間約10万隻に上るが、一隻ごとの検査時間は延び、業務量は約3割増加すると見込まれている。
一方で、船舶数や検査手数料の収入が減り、JCIは18年以降、4年間で全体の約1割に当たる15人の検査員を削減。現在は採用に力を入れるが、離職も多く、今年4月時点で計144人と前年同期比3人増にとどまる。
関係者は「現場の人員は足りず、十分な検査態勢が維持できなくなる可能性もある」と指摘する。JCIは今年度からの中期経営計画で「業務モデルの見直し」を掲げ、ICT(情報通信技術)の導入による遠隔検査などを検討するとしている。
北海道・知床観光船沈没事故
北海道・知床半島沖のオホーツク海で2022年4月23日、小型観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没しました。乗客24人(子ども2人を含む)のうち18人が死亡、6人が行方不明となっています。運航会社の社長は業務上過失致死の罪で起訴され、民事訴訟でも責任を追及されています。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]